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若い時にはあまり感じなかったのだが、「酢」というものは本当に体に優しいということがおぼろげながら分かって来た。特に疲れた時とか、少々寝不足という時に、ちょっとだけ酢を用いた料理を食すると、かなり体調がよくなるのだ。

残念ながら、その理由はよく分らない。が、確実に体に変化が起こることは事実。昔は、疲れた時には、がんがん焼肉でも食べて、ぐっすりと眠れば翌日に疲れを持ち越すということはなかった。悲しいかな、昨今はそうはいかない。勿論、食べもので栄養をつけ、その栄養で疲労を取り除こうという意図は変わらない。ただ、闇雲に食べるだけでは、体が素直に受け入れて呉れなくなって来たのである。

そこで、酢の入った食べもの、例えばキュウリとワカメの二杯酢和えとか、肉を味わうにしてもポン酢と大根おろしを用いるなど、ちょっとした工夫を凝らしている。と、消化はよくなるし、体に溜った疲労感や倦怠感が不思議と消えるのである。僕が好んで食べるのは、キャベツの柔らかいところをさっと湯通しをして、そのキャベツに梅酢をかけて頂く。梅は、毎年二十キロばかり漬け込むから、梅酢は一升瓶に二本くらいは確保出来る。これを料理に使っては、かなり重宝している。

考えてみたら、世の中には色んな酢が存在している。米で作った醸造酢を筆頭に、柿酢、リンゴ酢、といった果物を原料とした酢。当然、ワインビネガーという、ブドウ酒を変化させたものもあり、若い女性などには人気がある。やっぱり、ワインビネガーという呼び名が雰囲気を出すのであろう。また、バルサミコという、ワインビネガーを更に濃厚にして、何年も寝かせて熟成させたものがある。このバルサミコは、ちょっとアイスクリームにかけても抜群に旨いし、肉等のソテーにたらしても香り高くなるし、どう用いてもよいという万能調味料である。難は、旨いもの(年代もの)程値が高い。ややもすると、三合程度で、一万円以上はするのでそう簡単に買えないのが、悲しいかな現実なのである。



Kubota Tamami


このバルサミコやワインビネガーの仲間に、シェリービネガーというのがあるということを、ついこの間知った。基本的にはワインビネガーの作り方と同じなのであろうが、極上のシェリー酒を育んだ樽を使い、熟成された酢であるらしい。確かに、馥郁たるシェリーの香りが漂い、サラダにかけたりすると酔ってしまうような気がしてしまう。だが、香りといい味といい、相当においしい酢であることには間違いない。スペインではかなりポピュラーものらしいが、やはり日本に到達すると高くなってしまうのだろうな、とまたもや悲しくなってしまうのである。

酢の値段と言えば、一般的な日本での酢の価格は、ややもするとミネラルウォーターより安い場合があると、日本を代表する酢のメーカーの方が嘆いておられた。だから、何とかして酢に付加価値を持たせ、高い値段で売ろうと必死になるのは分かる。されど、我々にとっては、安くておいしい酢が有り難いのである。最近、中国の安い黒酢を、いかにも体によさそうな能書きをつけ、健康食品として売っているが、如何なものであろうか。

僕は、普段の生活の中で、果実酢であろうと、穀物酢であろうと、はたまた黒酢、赤酢のような変わった酢であろうと、毎日しっかりと摂取すればいいと思っている。香港に行くと、ふかひれ料理には赤酢をかけ、野菜炒めには黒酢をかけたりしている。

また、日本のラーメン屋さんでも、昔から酢をかけて召し上がれというところがある。とにかく、どんな酢であれ、毎日少しずつ摂り続けることが肝要なのである。どうして体によいのかは、専門家の方にお任せすればよいことである。


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