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梅雨に入るすこし前のことだっただろうか、福岡の知人から連絡が入り、今年は瓜の当たり年なので粕漬けを期待して下さい、ということであった。ここ十年、いやもう二十年近くになるだろうか、福岡を訪れた際に鮮やかな黄緑色のウリの漬けものをかしわ御飯と一緒に味わった。

ウリの漬けもの、つまりは奈良漬けの浅漬けなのだが、カリカリとした歯応えと共に仄かに香るウリの青臭さがたまらなく好いのである。正直なところ、僕はあの黄金色をした奈良漬けは大の苦手なのである。カリカリ感は良いのだけれど、酒粕と絡んだ独特の甘味と、舌にこびりつくような熟れ切ったまったり感に耐えられないのである。

どうしても食べられないものではないけれど、おいしさを感じられないので食べないことにしているだけだ。これに対して、浅漬けは大大好物。ややもすると一人で一本(瓜は半分に割って漬けるから正式には半本)は簡単に食べてしまう。

僕の大好きなウリの漬けものは、白瓜だそうである。てっきり隼人瓜だとばかり思い込んでいたのだが、隼人瓜に比べて白瓜は皮が柔らかく、始末しやすい上に梅雨前に収穫出来るので、梅雨が明けて夏本番と言う時期には、カリカリとした食感が楽しめるのである。ただし、この白瓜は雨に極端に弱いそうで、花が雨に当たると実が付かないそうである。従って、去年は壊滅状態で、僕が味わったのはほんの少しだけであった。ちなみに、隼人瓜というのは南米が原産で、ブラジルにいた時に食べていた漬けものが、隼人瓜であった。でもこの隼人瓜いささか固いのだが、スープに煮込むとけっこうおいしかった。


Kubota Tamami


しかし、日本には実に様々なウリがある。例えば猪の子供には楕円形の白い斑点があり、これが縞瓜に似ているから、ウリ坊と呼び半ばペット状態に扱っている。ま、ウリ坊はウリとは違うけれど、昔よく食べていたマクワウリというのがあった。黄色い楕円形のウリで、甘味はさほどなかったけれど、香りと水分が多く井戸に吊るして冷やし味わった。今、マクワウリはどこに行ってしまったのだろうか。韓国にはそれらしきウリが売られていたが、マクワウリという確証はない。キンショウメロンというのが、マクワの系統であるようだが、素朴さに欠けている。

メロンと言えば、夕張メロンのような果肉の黄色いメロンは、当初中々売れなかったそうである。やはりメロンは、マスクメロンのように果肉が緑色でないと駄目だったとか。それにしても、現在の日本には相当数のメロンが売られている。それだけ、日本人はウリ科の果物が好きなのであろう。同じウリの仲間のカボチャも女性の間では大人気。カボチャのスープに始まって、アイスクリーム、プリン、タルト等々… 数えきれないほどの料理やケーキがある。

カボチャというと、イタリア食材のズッキーニは実はカボチャの仲間なんだそうである。僕はついこの間まで、キュウリの仲間だと思い込んでいた。このズッキーニ、韓国では昔から食していて、チゲ鍋などに用いている。どうして日本には入って来なかったのだろう、不思議でならない。炒めて旨いし、煮付けても旨い。とにかく、よい出汁が出るのである。

他にスイカもウリだし、ヘチマもウリだし、茹でたら果肉が細い糸になる素麺カボチャもウリの仲間だ。最近食べて感動したウリは、沖縄のモーウィというウリで、果肉をスプーンでこそぎ取り、サラダにするとシャキシャキ感があり仄かな甘味があり、大変に旨い。今、ゴーヤ(苦瓜)が一世を風靡しているが、苦味がない分内地の人が知ったら、再び大ブームを巻き起こすのではあるまいか。栄養価をきっちり計りテレビにでも出したら、忽ちにして沖縄からムーウィが消えるかも知れない。


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