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どうやら今年の夏は、家庭菜園をやっている者にとって最悪のシーズンであったようだ。雨が少なく、カンカン照りが続くと野菜は忽ちにして萎れてしまう。この自然現象の猛威には、プロの農家の方々もさぞかし頭を抱えて居られることであろう。水を撒くのもよい方法だが、畑まで水道を延すのも大変だ。それに、中途半端に灌水の癖を作物に与えると、植物に妙な癖がつき自立してくれないような気がする。

昨年は昨年で、雨ばかりの気候でやはり庭の作物は壊滅状態であった。あ、そうそう簡単に作物が育つのであらば、農業に従事されている方々の面目が立たなくなってしまうのではあるまいか。そう思い、自分を慰めているのである。が、誰にでも手軽に育てられる筈の唐辛子が、今年は全滅に近い状態なのである。自慢ではないが、世界中の唐辛子の種を集めて、ガーデニング気分で育てていた。約四十種類くらいはあっただろう。それが、辛うじて五、六種類しか生き残っていないのだ。

正直なところこの危機感、夢にまで出て来る始末。勝手に東京チリクラブ会長とか日本チリクラブの会長と嘯いていたのだが、今年は大法螺も吹けない有り様だ。それより困るのが、鮨屋に持ち込んでハケのタレに刻み入れて貰い、ピリッとした鮨が味わえないのが口惜しいし、ステーキを食べる際醤油に添えることも適わず、悶々としている有り様なのである。


Kubota Tamami 
もともと唐辛子は南米が原産の茄子科の植物だから、茄子が育つところであらば大体順調に育つ筈なのだが……。同じ茄子科の植物にトマトがある。このトマトに限っては、植えてもいない菜園に勝手に芽生え、雑草の中で逞しく育ちたわわに実を付けているではないか。それに、どうして生えているのか分らないけれど、野生の茄子も淡い紫色の花を咲かせている。ひょっとすると、この茄子が結実してくれると、おいしいタイ料理が食べられるのではないかと、秘かに期待を寄せている。タイのグリーンカレーなどに入っている、あのプチプチしたやつである。あれが、我が庭で生産出来るとなると、これは大いに威張る材料になるではないか。

しかし、日本ではいつの間にか多くの茄子が栽培されるようになった。
いわゆる定番の十センチ位の茄子。九州に多くある長茄子、長いものは五十センチ近くはあるだろう。これによく似た形の緑色のもの、多分台湾あたりから上陸したのではないだろうか。炒めものにすると、すこぶる旨い。京茄子とか賀茂茄子と呼ばれている丸いもの。これは、煮付けや出汁で蒸して味噌味でいただくと、本当に幸せな気分になる。賀茂茄子の巨大化した、米茄子も大きくて食べ応えがあるし、よいものに当たると得をした気分になる。

この他に、水茄子と呼ばれる果肉のまことに柔らかいものがあり、上手に塩漬けにすると、思わずニンマリとほころぶ程においしい。最近新潟で出会った茄子だが、小振りの丸型で賀茂茄子と水茄子の混血のようなものがある。何て言う種類か聞いたのだが、茄子という答えしか聞けなかった。この小丸茄子、炒めてもおいしいし味噌汁に加えても旨いし、糠味噌にも最高だ。この種を是非手に入れて、来年こそは唐辛子と共に檀家の自慢のネタにしようと思う。

そろそろ、秋茄子の季節であり唐辛子の収穫の時期。残念ながら僕にとっては淋しい秋となりそうだが、これも試練。来年の捲土重来をはかり、今年の間によい堆肥を備えておこうと心に誓うのである。それにしても、旨い秋茄子何とかならないものだろうか。口惜しい限りである。


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