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我が家の正月料理と言うと、絶対に欠かせないのが『がめ煮』である。一般的には、筑前煮と呼んでいるようだが、筑前煮では何だか上品過ぎて味も淡白なような気がする。

とにかく、大きな器に鶏肉、椎茸、里芋、蓮根、牛蒡、人参、筍、こんにゃくなどを煮付けて盛り合わせるものである。がめ煮の由来は、スッポン(昔は、どぶ亀と呼んでいたそうである)を主に根菜と共に煮込んでいたところから、どぶがめ煮とかすっぽんがめ煮と呼んでいたものが、がめ煮に省略されて今日に至っているようである。

いずれにしても、福岡、佐賀辺りの筑前から熊本の肥後辺りまで、このごった煮は定着しており、大体がめ煮と称しているようである。ということで、同じがめ煮でも、それぞれの地域や家庭によりその作り方はかなり異なる。もともとは、仏教の伝来と共に精進料理として普及したものに、どぶ亀の蛋白質を用いて味を濃厚にしたものらしいから、どう作ろうと勝手な訳である。各々の家庭の味を、懐かしみながら継承して行けばよいのである。

我が檀家では、正確に言うと二通りの味付け方法がある。一つは父の父方の家系の作り方で、こちらは柳川の沖の端という漁師町の味付け。どちらかというと、醤油と砂糖を用いたこってりとした仕上がり。もう一つは、祖母の家系の味付けでこちらは久留米の有馬藩家臣の味。使う材料は殆ど変わらないのだが、祖母はそれぞれの具材を大きめに揃え、色の薄いものから一つずつ煮込んでいき、最後に大鉢の中で合わせる手法。祖母のがめ煮は、確かに見た目はまことに美しくいかにも正月の料理という感じはする。が、それだけに、味は淡白かも知れない。

Kubota Tamami


それに比べて祖父方の方の作り方は、ごった煮の感があるから、どうしても煮崩れるものも出て来る。おまけに、色が濃い。どう見ても、仕上がり感は悪いのだが、味はというとそれぞれの旨味が互いに染み込んでいるから旨味はある。ま、正月料理というより、何かのイベントの時のお惣菜という雰囲気なのであろうか。

だから、祖母は常々このがめ煮を作る際に、自分としては仕上がりの美しい久留米スタイルを好んでいたのだが、作るのに時間と手間がかかるから、正月は自分の実家のやり方を用い、普段は柳川スタイルを取っていたようである。残念ながら二つの作り方を同じにやったことがないから何とも言えないが、全く別な料理と申しても過言ではないかも知れない。

今やがめ煮は筑前煮として、日本全国の家庭でも比較的ポピュラーな、言わばおばん菜になっている。よい言い方をすれば、おふくろの味であるだろうし、我が家では息子達は『ババ飯』と呼び家に帰って来ると貪るように食べている。正月の欠かせぬ料理ではあるが、日常の中でも安らぐメニューの一つとなっている。

材料は前にも記したが、それ程明確にする必要はない。鶏肉、茹で筍、干し椎茸(これは、ぬるま湯で戻しておく)、牛蒡、人参、こんにゃく、里芋位だろうか。他に、薄切りにしたショウガとトッピングに用いる絹さや少々。鍋にごま油を熱して、鶏肉とショウガを炒める。次に、均等に切り揃えた材料を火の通り難いものから順に入れ炒め合わせる。全体に火を通したところで、砂糖少々、醤油、酒を加え味を整え、水と薄目の昆布出汁を適宜加え加熱。途中で里芋を入れ、芋が柔らかくなったところにサッと湯通しをした絹さやを加えて火を止める。
一度、スッポンを用いて原点の味も見てみたいと思っているのだが……。



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