約五十年棲みなれた家を、道路拡張という名目で明け渡さなければならぬかも知れない。この五十年の間に、七、八年の間は家を出て他所に暮らしたこともあった。が、どこで暮らしても、現在の環境に勝るところは無かっただろう。
この土地は父がいたく気にいって、地主から借り受け改築に改築を重ね暮らしていた。そして、父の没後に四苦八苦をして、何とか土地を地主から買い取った。東京都の西の端ではあるが、緑豊かないい場所であり、かなり快適に暮らしている。
ところが最近になって、昭和二十二年に計画されたという補助一三二号線という道路計画が、またぞろ再燃し始めたのである。この計画が実行されると、我が家の八十五パーセントは呑み込まれてしまうことになる。樹齢百五十年は経っているだろう十数本の木々を見殺しにして、どこか新天地を求めねばならぬことになる。
現在六十一歳、土地問題がこじれたとして、十年後の移住はかなりしんどいだろう。だが、今なら何とかなるような気がする。女房殿と話し合った結果、土地問題はさておいて、 銀行から借金をしてでも終の棲み家を確保しておこう、ということに相成った。しかし、大それた家を構える気持ちはさらさらない。夫婦二人と、かなり頻繁に訪れてくれるだろう客人が快適に過ごせる家がいい。
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