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糖尿予備軍と診断され、半年。女房殿の協力もあって、十キロの体重を落とすことに成功した。つき合ってくれた女房殿も、約五キロ減量出来たというから、我が家にとっては逆に幸いしたのかも知れない。とにかく、厳しい食事制限ではなく、犬を連れての散歩に精を出したのが好結果を生んだようである。

糖尿の気配があると宣言された時に、やはり気になったのは砂糖の存在であった。と言うより、甘いものは絶対に食べたら駄目、という強迫観念に囚われたことは事実である。大好きな大福はおろか、柿のような甘い果物はいけないと、勝手に思い込んだのである。しかし、病院での糖尿教室で管理栄養士のレクチャーを受けると、あながちそればかりではないことに気がつく。一日のカロリー摂取量を決め、蛋白質とか炭水化物などをジャンル分けにして、それ等をバランスよく摂って行くことが肝要であると理解する。

従って、糖分であっても全く摂ってはいけないということではないことが判明。糖尿という、病名がまぎらわしいのである。何だか、小水が砂糖漬けになっている印象を受けるのだ。

当然、健常者より尿の糖分含有値は高いのであろうが、尿に糖が溜まる病気ではないのであった。だから、大福を絶対に食べてはいけないというものでもないようだ。穀物と糖、油脂は同じカテゴリーにある。このトータル点数を範囲内で均等に分けて食べればよいのであった。因に、大福は半個で一点だから、一個食べたら二点。食べ過ぎたら、その分のカロリーを確実に消費すればよいと解釈した。


Kubota Tamami

ま、僕の場合は、コーヒーを多飲するが、砂糖もミルクも入れないから、さほど問題はないようだ。ところが、二十代の時に暮らしていたブラジルでは、気候がサトウキビの生育に合っている為、そこかしこにサトウキビの畑があった。ということは、砂糖の値段が日本の十分の一以下だったように記憶する。勿論、コーヒーも只みたいな値段であった。日本の喫茶店でコーヒー一杯が百五十円くらいの時に、三円か五円でコーヒーが飲めた。とにかく、安いのである。

で、ブラジルのコーヒーというと、通常はデミタスカップで味わう。まず、カップの中に半分ほど砂糖を入れ、その上に濃いコーヒーを注ぎ、たいていは混ぜずに飲む。だから、最後になるとコーヒーを飲むというより、砂糖のどろどろしたものを啜るという感じだ。普通コーヒーというと、モカ種の豆をかなり深煎りにしてかなり細かい粉にする。それを沸騰した湯の入った鍋に大量に投げ込み、棒などで軽く混ぜたら大きなネルの漉し布に流しいれる。別の鍋に受けて、もう一度熱を加えるのだが、田舎ではその時点で砂糖を入れる場合がある。砂糖の量は、コーヒー中で飽和状態になるくらいだから、慣れないと身震いをするくらいに甘い。だから、ブラジル人は若くして総入れ歯だったり、糖尿で目が見えなくなった人が結構居る。桑原々々……。

最近の日本では砂糖は安いけれど、昔は大変貴重なものであったらしい。土台、ブラジルなどとは異なり、サトウキビさえ沖縄や種子島辺りが北限に近いのであるから。だが、昔から阿波の国では僅かながら砂糖が作られていたらしい。徳島のサトウキビ畑を見たことがあるが、太さが極端に細い。大人の指の太さがあったらよい方だ。しかし、和三盆と呼ばれている砂糖は、上品な甘さで美味である。ただし、高い。ブラジルの百倍近くするのではなかろうか。この和三盆を料理に用いたり、紅茶に加えると実によい味となる。とまれ、体のことを考えると、少々高くとも味の優しい和三盆を使うべきなのであろうか。