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今年は、思いのほか山菜を堪能した。自分でも買ったし、友人が大量に贈って呉れたからである。僕の好きな山菜を三つ挙げるとすれば、ミズ、ウコギの芽、山ウドであろうか。お浸しにしたり、ゴマ和え、味噌和えにしたり、てんぷらにしたり、炒り煮にしたりと、どうやって味わってもおいしい。好きな山菜を三つ挙げたが、正直なところ山菜であればどれもが大好きである。


Kubota Tamami
長い冬を耐えて耐えて耐え抜いて、やっと芽を出したところを摘み取ってしまうのだから、考えようによってはかなり残酷な話ではある。が、それだけに、おいしさが凝縮されているのだ。そんな山菜を、ほんの少しだけ天からお裾分けして頂いて、ゆっくりと噛み締めて味わう。ほろ苦さと、春の香りが僕の体に移行し、改めて自然の偉大な生命力を享受出来るような気がするのである。

同じような新芽でも、何も山に行かなくとも味わえるものもある。例えば枇杷の葉だとか、フキとか、ミョウガの芽は、意外と身近なところにある。そうそう、よく街路樹として植えられている偽アカシヤの蕾も、テンプラにすると甘い蜜を含んでいてとてつもなくおいしい。もう終わってしまったが、さつきの蕾も同じく旨い。とにかく、トリカブトとかウルシのような毒性の強いものにはよく注意をして、野山の新芽や花をしっかりと見極めて味わうと、四季の有り難みが倍増する。どうか、来年の参考にして頂きたいと思う。

梅を漬ける頃になると、新ショウガが出回り始める。俗に谷中と呼ぶ、新芽の付いたショウガの赤ちゃんだ。これを、さっと湯通しをして梅酢に漬けて味わう。湯に通さずにそのまま漬け込んでも旨いし、酢味噌で味わってもよい。梅酢に漬けると言ったって、三十分もあればよい。梅酢がない場合は、二杯酢でもおいしい。ショウガはぴりぴりとした辛味があるが、食べ終わった後に口の中に薫風が通ったような爽やかさを感じられる。

聞くところによると、ショウガというのは、体を温めてくれる作用があるらしい。と同時に、知らず知らずの内に体内に取り込んでしまった毒素の洗浄もしてくれるとか。昔から、風邪を引いた時にショウガ湯を飲む習慣があった。

これは民間療法であるが、東洋医学の見地からすると、実に理に叶った処置なんだそうである。体を温めて発汗作用を促し、その熱によって体内に侵入した菌をも一掃するらしい……。だから、寿司屋のガリというのは、かなり合理的な食べものであるらしい。

てなことで、体を温めてくれるショウガを常に摂取していれば、風邪も引きにくいと信じ込み、昨年の暮れあたりから意識的にショウガを多くとるようにしてみた。ま、これは偶然だったのかも知れないが、不思議なことに風邪には罹らなかったことと、花粉症の被害には遇わずに済んだことは事実である。仮に、たまたまであったとしても、周りの人達がかなりひどい花粉症で悩んでおられる時に、平然と出来たことは有り難かった。

で、ショウガ湯の作り方だが、水二百ccを沸かし、そこにひねショウガをよく洗い皮のまま下ろして絞り汁だけを加える。再び沸騰させ、今度は水に溶いた吉野葛を七〜八グラム加えたら、出来上がり。そのまま飲んでもよし、黒砂糖を加えて甘くして飲んでもいい。コップ一杯のショウガ湯を飲むと、てきめんに体が温まるのが分るだろう。

ショウガ湯と平行して食べているのが、ラム肉のショウガ炒めである。ラム百グラムだったら、同量よりやや少なめのショウガを皮のまま千切りにして、ゴマ油で炒める。味付けは、醤油少々と甘くしたかったら黒砂糖を溶かしたタレに、ラムを食べやすい大きさに切って十分位漬け込み、ただ炒めるだけ。この料理は、おいしい上に本当に体が温まる。こんな簡単なことの積み重ねだけで、健康が維持出来るなら、ショウガ様、万歳である。