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久々に、初秋の北海道を車で走った。整然と区画された畑には、トウモロコシが実り、ビート(砂糖大根)の濃い緑の葉が印象的であった。小豆は、もう黄金色に乾いていたが、大豆は今実を大きくしている最中のようであった。何と言っても見事だったのが、向日葵の花である。東京ドーム数個分と思われる広さの畑が、黄色と緑に彩られ圧倒される美しさであった。しかし、向日葵の背丈が低かったのは意外であった。よく向日葵の畑を巨大迷路に仕立てて、子供達が出口を探す光景が思い浮かぶのだが、昨今の向日葵は矮性の品種になってしまったようである。

ともあれ、北の大地は広くて見事な迄の美しさであった。また、畑には北キツネが姿を現してくれた。花が終わり、すっかり枯れたジャガ芋の畑で匂いをかぎ廻っていたので、ジャガ芋を食べているのかと思っていたら、「あれは、芋を食べているのではなくて、芋を齧っているネズミを狙っているのですよ」運転手さんが愉快そうに教えて下さった。そう、八月の終わりから九月にかけては、ジャガ芋の収穫期なのである。ジャガ芋はもとは人間が植えたものであるが、ネズミにとっても収穫の秋なのだ。そのネズミを追う、キツネもまた狩の季節なのである。都会に暮らしていると、自然界の連鎖なんていうことに全く気付くことはないけれど、北の大地ではこうした自然の営みを垣間見る機会があることにいたく感動させられた。

Kubota Tamami
ところで、北海道のジャガ芋のおいしさには定評があるが、おいしさの秘密は昼と夜の気温差が関係しているらしい。新ジャガはもとよりおいしいのだが、厳寒の北海道で凍らぬように保存した芋を、翌年の春頃に食べると更においしくなるようだ。種芋と呼ばれてそう数はないらしいが、確かにホクホクさを増し素晴らしく旨い。札幌の八百屋にお願いして、十キロだけ確保して頂いている。ただ、東京に持って来ると、気温が高い為だろうあっという間に芽をほころばせ始めるから、大量には注文出来ないのが悩みである。

北海道のジャガ芋の定番というと、男爵とかメイクイーンであったが、最近は北あかりとかアンデスレッドという品種が大の人気のようである。もともとアンデス山脈周辺が原産地で、スペイン人がこれをヨーロッパに持ち帰り、それをオランダ人が食料としてマレイ群島のジャガトラ島に運び、その地で栽培されたかは定かではないけれど、然る後に日本に運ばれて、ジャガタラ薯となりジャガ芋に変化したと言われている。馬鈴薯と呼ばれるようになったいきさつは判らないが、恐らく鈴をつけた荷馬車が芋を運んで来たことから、馬鈴薯になったのでは……。他に、ザラ薯とかゴショウ薯、セイゾウ薯と呼ばれている。

僕もアンデス地方は何回も訪れているが、確かにペルーやチリの高地でインディオたちがパッパと呼び主食としていた。ただ極端に小さく、直径が三、四センチあれば大きい方であっただろう。色もかなりカラフルで、赤(これがアンデスレッドの原種ではないか)、黄色、緑、白と多々あった。間違いなくこれが基となり、ヨーロッパや日本で改良されて我々はおいしく味わっているのである。この改良芋であるが、ポテトチップス用フライドポテト用と多種多様で、その種芋の管理はかなり厳しいらしい。旨いからといって、簡単に海外や専門農場外に持ち出し出来ないとか。

ともあれ、ジャガ芋はおいしい。どんな種類であれ、料理の方法で驚く程に旨くなる。僕が最近気に入っているのが、粉吹き煮である。茹でた芋を鍋に入れ、醤油だけを絡めて再度煮るのだが、芋の形を栗くらいの大きさに留めるのがコツ。崩してしまうと、べと付いて旨くない。



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