店主敬白・其ノ参拾







友人に石垣島へ誘われて以来、石垣島や西表島にはまってしまった。石垣島に三年連続で来てしまい、西表島も二回目である。二回目は、西表島の北西部の浦内川上流でトレッキングをして、マリュウドの滝を見物した。そして、いよいよ浦内川の船着場から河口までのカヌー下りである。案内書では、行程三時間となっていた。インストラクターからカヌーとカヤックの違いは、パドル(櫂)にあり、ブレイドが片側しかないのがカヌー、両側にあるのをカヤックと呼び、今回乗るのは正式にはカヤックで、また、カヤックのパドルは引いて漕ぐのでなく、押して漕ぐ等々の簡単な説明を受けた。このインストラクターは日焼けして日本人というよりはインディアンという風貌をしていてなかなかのハンサムである。彼がカヤックを漕ぐとこれがまた美しい。どんなスポーツでも上手な人は、きれいな動きをする。

この日、前日の大雨で流れが速く、三十分で行程の半分まで来てしまった。インストラクターの人が、少し時間があるのでマングローブの林の中に入って陸地を歩きましょうと言ってきた。マングローブというのは、潮感帯植物の総称で西表島には三種類の木があって、ヤエヤマヒルギ、メヒルギ、オヒルギである等の説明を受けた。陸地といっても、湿地帯のジャングルである。「この蟹はコメツキガニです。その魚はトビハゼ、その穴はシャコの穴」等、歩きながら説明してくれた。「ありました」と言って泥の中から取り出したのが西表島のシジミ、人の手のひら位の大きさである。さらに進むと真っ黒な一メートル位の高さの泥のかたまりがあった。表面はぶつぶつしてとても気持ち悪い。これは何かと聞いたら、アリ塚との事である。かなり歩いたなと思って気がついたのだが、川がどちらか、陸側がどちらかわからない。見えるのは、どれも同じような木が密生している姿だけである。インストラクターが居なければ帰り道は全くわからない。ジャングルというのは結構怖いものだなと感じた。予定よりかなり早く河口に着いてしまったが、適度な運動ができて気分爽快なカヌー下りであった。

さて、今年も西表島に行きたいと思い、ついに三年連続で来てしまった。今回は、島の西側の船浮というところである。人口四十人の集落であるが、全く道路がつながっていない為に陸の孤島と言われている場所である。白浜という港からの船が唯一の交通手段である。ここの観光はのんびりしたものである。なにしろあまり見るところがないからである。この集落で生まれ育ったという老人が案内してくれた。この老人が言うには、イリオモテヤマネコはこの船浮に一番いるとの事で、国が保護して柵やトンネル等を作っているところにはまるでいないとの事であった。それに、この老人はなんと、イリオモテヤマネコを十五匹も食べたと言うのである。話を聞くと、昔おじいさんとよくイノシシのワナを仕掛けたが、それにイリオモテヤマネコがかかってしまったそうだ。子供心にかわいそうだと思って逃してやったら、おじいさんが怪我をしたらもう生きられないから、しめて食べた方が良いと怒られた。案の定、近くで死んでいたそうで、それからはイノシシのワナにかかった場合は食べたそうである。天然記念物になってからはイノシシのワナもやらなくなったとの事である。この船浮から十分位歩くとイダの浜というビーチがあるが、そこまで歩く間に三か所イリオモテヤマネコの足跡を見せられた。全部昨夜のものだと言う。野生のイノシシの足跡もたくさんあったが、全く違う足跡である事は確かだった。とにかく、ここでは時計が止まっているかのようにのんびりとした時間を過ごせる。

翌日は石垣島でまだ見ていない所をタクシーで観光した。先ずは白保の町並みを見に行った。赤瓦の家並みやフクギ並木など落ち着いた集落が心を和ませる。沖のサンゴ礁も美しいという。運転手さんは、この先の石垣島ゴルフ場も今年の八月で閉め、新しい飛行場の建設工事が始まると言う。ジャンボ機も乗り入れるようになるとの事。私は「サンゴ礁もつぶしてしまうの」と聞くと「間接的にはね」と言うので、つい「なんでそんな工事をするのだろうね。僕は八重山諸島を世界遺産に登録してもらいたいと思っている位なのに。ジャンボ機が入るようになったら日本人はすぐ自然を破壊してしまう」と言ったら、運転手さんは「お客さん、私だからいいようなもので他の人に言ったら殴られますよ。石垣島にジャンボ機を飛ばす事は島民の悲願ですよ。反対しているのは関係のない自然保護の連中。島民は全員待ち望んでいるのだから。サンゴ礁なんかすぐ復活してしまう。本当だよ」と言ってきた。

この運転手さんはかなり怒っているようだった。多くの住民がいる石垣島だからこその問題であるが、私はやはり八重山諸島のように素晴らしい自然があるところは、そっとしておくのが一番と願わずにいられない。


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