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我が家では、最近ほとんどスーパーで野菜を買わない。近所にある
JA(農協)の売店か、農家の方が直接販売している即売小屋で野菜を仕入れている。だが、困ることは、大体地域の野菜は限定された品種しかないことだ。トマトやキュウリが出回ると、農協でも農家の直販もほとんど品目は変わらない。ただ、数か所ある即売農家も得意不得意あるらしく、その品種は微妙に異なる。そんな訳で、土日の休日は数軒の農家とJAの売店を廻り、二、三千円の野菜を買う。

例えば、キャベツ一個が百円平均で大根だって高くて百五十円。だから、三千円というと大変な量である。が、これをスーパーで買ったらその三倍はするだろう。しかも朝まで畑に植わっていたものだから、新鮮極まりない。特にホウレン草や小松菜、水菜といった葉ものの日持ちがかなり違う。やはり、生産者から直接買うメリットはこの辺りにあるのだろう。しかも、大根やカブ、ニンジンには青々とした葉が付いていて、煮物やテンプラなどにも使えるから一石二鳥。ただ、毎回気を付けないと買い過ぎになってしまい、無駄になることがある。

そんな農家の直売に、今年は里芋と八ツ頭、そしてアンデスレッドとか北あかりという品種のジャガ芋が一斉に出された。里芋は毎年売られているからなるべく小振りなものを分けて置いて頂き、湯がいて塩を振りかけ衣かつぎとして味わう。塩もフィリピンのガラタ地方の石蔵の塩という、マングローブの林の中から取水して熱帯の太陽の許の塩田で時間をかけて作られたものだから、甘味と旨さが際立っている。しかも、国産の手作りのものの半額以下。昨今、フランスの塩も話題となっているが、比較にはならない。

Kubota Tamami
この塩のおいしさを味わうべく、ジャガ芋や里芋を買い込むのだが、こんな時に限って新潟や千葉から里芋が届き、挙げ句の果ては北海道から北あかり、男爵といったジャガ芋が段ボールで五箱も送られて来てしまう。ま、収穫の時季は変えられないから、おいしい旬に送って下さるのはまことにありがたい。しかし、明けても暮れても芋、芋、芋……。いくらおいしい塩とジャガ芋に里芋でも、茹でても焼いても煮付けてもマッシュしても食べきれるものではない。近所の犬友達に貰って頂きホッと一息ついたところに、ピンポン宅急便です、と、ものが届くと体が凍り付く。

この芋類、凍らない程度の低温、つまり一〜三度くらいの温度で乾燥しないように保存しておくと、例え半年後でも更においしく味わえる。北海道辺りでは、畑に穴を掘ってそこにむしろを敷いてジャガ芋を入れ、一冬寝かせて雪が溶けた頃に再び常温の空気を当てると、芋は一斉に芽を吹くのだそうである。これが、いわゆる種芋で、これを早春の畑に植え付けると再びおいしい芋が育つとか。この、穴から取り出したばかりの芽を吹く前の種芋は信じられないほどにおいしい。デンプン質が糖分に変わり、適当に水分が抜けていて、オーブンなどで焼き上げ醗酵バターを乗せて味わうと、誰しもが恵比寿様になること間違いない。が、これは現地で一瞬しか味わえない。東京に送ってもらう途中で芽を出し、忽ち変化してしまうのだ。

という次第で、我が家の冷蔵庫をジャガ芋専用に買い足し、おいしいジャガ芋や里芋を長期保存することも考えられぬことはない。でも、そんなことをしてまで旨いものを食べようとは思わない。やはり、全ての食べものには『旬』がある。その、旬を尊ぶことこそが生きている証ではなかろうか。


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