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先日、水菜漬けですといって、ポリ袋に入れられた緑鮮やかな漬けものが御殿場から届いた。早速、小口切りに刻んで味わってみると、これがかなりおいしい。水菜です、という注釈が付いていたので、京菜とか水菜と呼ばれている、茎が白く葉がギザギザの、最近ではサラダなんかにもよく使う、あの水菜かと思っていたら、どうも違うようである。どちらかというと、茎は丸く葉も尖ってはおらず、辛子菜とよく似ている。

御礼方々、送って下さった当人に電話をしてみると、正式には水かけ菜と呼ぶことが判った。御殿場界隈の水田を利用して作るから、御殿場水菜とも呼んでいるらしい。ともあれ、歯応えがよいのに、固さは全くなく柔らかで簡単に噛み切れる。食べてみると、緑の爽やかな風味が口一杯に拡がり、合わせて甘味を感じるのである。

休耕田に苗を植え、きれいな水を注ぎ込み、米以上に手をかけて育んでいくそうである。しかも、刈り取った水かけ菜は一本ずつ丁寧に洗い、自然塩を用いて漬け込むそうである。だからであろう、一切の無駄な味がしない。

極めてシンプルな味わいの中に、素朴な水かけ菜独特の世界を醸しているのである。

食べ方は、そのままを絞って刻んだ場合は、調味料は何も必要としない。が、さっと水洗いをして絞り刻んだものは、素性のよい醤油を少したらすと更においしさを増す。僕は知多武豊産の宝山たまりを用いた。数年寝かせた大豆から滲み出た液体を、一切火を使わずに壜に詰めたものである。醤油というより、大豆醤(ひしお)と呼びたい逸品。下ろしショウガの絞り汁をかけても、漬けものの味がより一層冴えるだろう。

Kubota Tamami

昨今、日本の漬ものは韓国のキムチ押されがちである。事実、スーパーなどの漬けものの売れ筋ナンバーワンは、キムチなんだそうである。この現象を考えてみるに、いかに日本人が和食を食べなくなってしまったかが理解出来る。炊きたての銀シャリに、旨い漬けものと味噌汁。一汁一菜の美徳は、どこへ置き忘れたものであろうか。

とは言うものの、北海道から沖縄に至るまで、かなりの種類の漬けものがあり、保存食として生き残っている。北海道の巨大キャベツに鮭の切り身をはさみ、米麹をまぶした漬けものを氷を割って取り出し味わう。シャキシャキとした食感に、鮭の旨味とキャベツの甘味が加わり、これだけでご飯が進んでしまう。秋田のなた漬けも、じんわりと来るおいしさがあり、冬になると恋しくなる。大根をなたで大胆に削ぎ、さっと湯にくぐらせて下塩をつけ一昼夜置き、小口に切った南蛮(唐辛子)と甘酒を加えてしっかりと重石をして、一週間寝かせると旨いガッコ(漬けもの)となる。秋田では、これで茶を飲むのだ。

福岡には、山汐菜と呼ぶこれまた辛子菜の仲間であろう、ピリリと辛い漬けものがあり、ご飯の友として忘れ難い。茶漬けにトッピングしても、いや飯が緑に染まるくらい乗せて、濃い茶をかけて味わうと他におかずが要らないくらい食が進む。また、沖縄で味わったジューシーと言うのか、炊き込みご飯なのか、味付けご飯に青菜の漬けものが乗っていて、それに昆布だしを注いで食べ、余りの旨さに唸ったことがある。

何はともあれ、冷蔵庫中に常時三、四種類の漬けものを備え置き、面倒でもご飯を炊いて、漬けもので米の旨さを再認識しよう。今、日本は世界一の長寿国だそうである。これを維持する為にも、漬けものをモチベーションとして、正しい日本食を取り戻そうではないか。



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