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三年ぶりに、中国へ梅を買いに出かけた。四月の十日、成田から空路にて厦門(アモイ)へと向かったのである。厦門空港に降り立つと、汗ばむくらいの陽気である。日本の気候で例えるならば、完全に初夏と言えよう。厦門というのは福健省の港町で、台湾の対岸に位置する。更に、厦門から車で三百キロ近く広州方面へ南下し、海岸線から内陸へ三十キロばかり走る。辺りにはライチの木々が花を付け、南国情緒を醸し出している。楊貴妃が大好物であったというライチ、六月にはたわわに実るそうである。

しばらくすると、ライチの木がまばらになり、代わって見覚えのある梅の木が増えて来る。目を凝らして見ると、葉の陰に実がびっしりと成っているではないか、日本ではつい先日梅の花見が終わったばかりなのに…。そうなのである、中国は広いから亜熱帯に位置する福健省の南では、三月から四月の上旬にかけて梅が実るのである。何と、梅の花は、十一月の終わりか十二月の始めの頃だそうである。この情報を知り、テレビのコマーシャルの撮影用の梅を、五年程前から買い付けに来ているという次第。

福健省詔安縣紅星郷というのが、中国で有数の梅の産地である。この他、中国の梅の発祥の地と言われている広東省の羅浮(ラフ)、それに上海から西に二百キロばかり離れた無錫(ムシャク・無錫旅情という歌がありましたね…)等がある。羅浮の様子は判らないけれど、中国の梅の産地は加工した製品の大半を、台湾と日本に売っているのだとか。

Kubota Tamami
梅の種類は、中国用の白梅。この梅は砂糖漬けにした後干してカラカラにする。よく、紹興酒等に入れる梅で、日本にも輸入されている。他に、アルコール漬けにしたり、カリカリ梅にする青梅。そして、日本から逆輸入された梅干し用の、南高梅。日本で売られている南高梅の梅干しの大半は、中国で塩漬けにされて日本で最終仕上げを行ない、高価な南高梅の梅干しとして販売されている、と、現地の方はニコニコ顔で話していた。恐るべし。この他、小粒の小梅。これも、その殆どの消費国は日本だそうである。

中国産の梅が悪いというのではないが、数年前に残留農薬が検出されたことで、その悪名が耳に残っている。しかし、現在は農薬の使用料は許容範囲以内だそうで、思わぬ病気が出て収穫が落ちた、とこぼしていた。僕がいちばん危惧するのは、農薬も恐いが梅の扱いが粗雑過ぎることである。ま、中国の方は大らかだからそうなるのだろうが、梅の実をまるで砂利のように乱暴に扱っているのだ。というのは、彼等は梅を殆ど食べないから、言ってみればどうでもよいのである。そんな訳で、農薬まみれになったり、傷だらけの梅になってしまうのである。

ともあれ、日本より確実に二か月早く梅が実ることはまことに有り難い。実際に日本で撮影に用いる梅は、二、三十キロ。だが、これが大変なのだ。病気でソバカスのような斑点がついている梅、傷だらけのもの、種類が異なるもの、直径が三センチ以下のもの…。丸二日かけて一トン近く採集された梅の山の中から、丁寧に撮影用の梅を選びだす作業たるやうんざりする。ようやく、約四十キロの梅を選定し、梅専用のポリ袋に詰めて日本に持ち帰る。勿論、日本の空港での検疫はしっかりと受ける。

そして、帰国の翌日に撮影。どう計算しても一粒三百円位になる高い梅だ。撮影終了後、梅酒に漬けたり煮梅にしたり、これまた大変。しかし、日本の梅が出回る頃、優雅に梅酒を飲んだり、カリカリ梅を楽しむことが出来るのは、幸せという他はない。


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