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ここのところ、我が家では自家製の味噌を用いて味噌汁などを作っている。自家製の味噌が出来るまでは、仙台の佐々重という大手の味噌蔵のものを多用したり、御坊の堀河屋野村という老舗の白味噌、知多武豊の中定商店の八丁味噌タイプの濃いものを、その日の気分でミックスして使っていた。俗にいう、合わせ味噌なのだろうか。

合わせ味噌といえば、韓国のテンジャンという昔の日本の味噌のような味のするものを混ぜたりもする。テンジャンは、韓国の田舎などでは秋の終わりにキムチを仕込んだ後、今度は大豆を蒸して麹に混ぜ醗酵させ、これをちょうど砲丸の大きさくらいの玉にして軒に吊るす。韓国といえば、冬は寒い。その極寒の中で寒風に晒し続け、春先に気温が緩んだ頃もう一度カメの中に水を足して漬け込み、再醗酵させて熟成を待つ。そうした手間暇をかけることによって、見事な迄に味わい深い味噌が完成する。この味噌が、かの有名なテンジャンチゲとなるわけだ。が、多くの日本の方は、臭いと仰る。確かに、独特の香りと風味があることは事実。だが、旨さは半端なものではない。だから、我が家でも味噌仕立ての鍋料理をする時には、このテンジャンを少し混ぜる。その効果は、 抜群。日本の味噌と合体して、奥深い味わいと旨さを醸してくれるのだ。

残念なことに、韓国でもこうした手作りの味噌は希有のものになってしまった。ソウルや釜山のデパ地下で売られているテンジャンは、大きな工場で大量生産されるものが殆どで、どちらかというと味の方も特徴のないものになってしまっている。

Kubota Tamami
ま、そんなことを言い出したら、日本の味噌の七割方は本来の味噌の味はしないかも知れない。味噌の口あたりを滑らかにする為に合成の添加物を加えたり、出汁を取らなくてよいように不必要な細工を施したものが多い。今の日本で、素朴でしみじみとおいしい味噌汁を味わっている方は、一体どのくらい居られるものだろうか。

と、生意気なことを申しているが、我が家の味噌がある日突然に変わった。八丁味噌系の色と香りだが、味がまろやかでしみじみとおいしい。 味噌を変えたのか聞いてみると、何と自家製であった。二年ほど前に何かの講習会で味噌作りというのがあり、好都合なことに頂いたよい大豆が あったのでレシピ通りに作り、物置きにしまい忘れていたとか。物置きの整理をしていた時、味噌が出現して食べてみたらおいしかったので、 僕に食べさせたというのがことの顛末である。僕もかつて何回か味噌蔵を訪ね、味噌造りを見学したことがあるが、麹造りにはかなりの神経を使っていたけれど、後は樽と重石と時間がことを解決してくれているように見受けられた。

我が家の味噌の作り方だが、聞いてみると極めて簡単。大豆、一キロ。 麹、一キロ。塩、四五〇グラム。以上が材料。これで、約四〜四・五キロの味噌が出来るという。半分以上は水なのだ。一晩水に浸けた大豆を軟らかくなるまで煮て、温かいうちにつぶすのだが、フードプロセッサーでもよいらしい。塩を一割、別に取り分けておき、残り九割の塩は麹と混ぜ合わせる。つぶした温かい豆と麹とを合わせ、更にしっとりするまでこねるように合わせ、ひとかたまりにする。その際固いようなら茹で汁を加え調節。後は根気よく空気を抜きながら容器に詰め込む。最後に表面を平らにし、残しておいた塩を敷き詰める。ラップで上部を密封し、落し蓋を乗せて重めの重石をする。この状態でシャワーキャップを被せ、冷暗所に半年以上寝かせれば相当に旨い味噌が楽しめる。どうやら、寝かせる時間が長い方が、より旨い手前味噌が出来るかも。


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