61





二週間ほど、仕事でタイを訪れていた。仕事とはいえ、当然のことながら三度の食事はしっかりと味わう。朝食は概ねホテルだから、ブッフェスタイル。とはいうものの、どこのホテルも信じられない程の品数が揃っていた。タイ料理に始まり、洋風、中華、和食と何でも揃っていた。中でも感心したのは、お粥と麺を好みに合わせて仕立ててくれたことである。粥は、魚、鶏、豚のいずれかをメインに選び、モヤシ、ネギ、香菜、揚げパン(油条)、腐乳などという具を乗せて味わう。日本人向けなのだろう、塩昆布やタクワンもしっかり用意されている。麺は麺で、バーミーと呼ばれている卵麺から、大中小の幅の米で作った麺が三種、いずれも粥と同じように好みの具が選べる。

タイだけではないが、マレーシア、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーの辺りを総じてインドシナと呼ぶ。つまり、インドから支那の文化が微妙に混在しているのだ。このインドシナ文化が現在も継承されているのが明確に判るのが食である。

その代表ともいうべき料理が、グリーンチリカレーとトムヤムクンではなかろうか、両文明が見事なほどに取り入れられ、我々旅行者の舌をも充分なまで満喫させてくれるのだ。もう一つ感心するのが、米であろう。中国の雲南省との国境は、ラオス、ミャンマー、そしてタイが隣接している。そこが、米の発祥の地であるから、この地域には古代米と呼ばれる、黒米、赤米、インディカ種の米、ジャポニカ種の米、そしてモチ米とウルチ米という風に、米の品評会のごとく存在し、料理に合わせて食するのである。

Kubota Tamami


ま、米というのは日本でもおはぎのような甘味にも用いるが、僕が唸ったのがモチ米の中にドリアンを混ぜ、それにココナッツミルクをかけたものであった。確かカオニォ・ドリアンという名前のデザートであったが、素晴らしく旨い。と、僕は思うのだけれど、主役のドリアンが賛否両論。チーズ文化圏に育ったヨーロッパの方々は平気で召し上がるが、日本人の大半は『うんこ臭い』という理由で敬遠される。このプアーな表現はいつ頃から定着したものか。初めてタイやマレーシアを訪れた方に、ドリアンと言っただけでしかめっ面をされるのは腹が立つ。せめて食べてから何とか言えよ、と思うのだが先入観の方が強いようだ。

ドリアンと言えば、果物の王様と言われているくらい滋養にも富み、なおかつおいしい果物であるのだが…。とにかく、ウオッシュ系のチーズや納豆が苦手な方にはどう薦めても駄目な果物。だが、一旦その味を覚えると、街中でドリアンの香りを察知すると生唾が出て来る程になる。四、五、六月の熱帯地方の旬の果物。好奇心の旺盛な方だけに、お薦めしよう。ドリアンデザートの果物違いに、マンゴーやパパイアのものがある。カオニォ○○、という風に下に果物の名前が付いているから、それを選べばモチ米とココナッツミルクに果物が入ったデザートが楽しめる。

ま、トロピカルの国だから、年がら年中おいしい果物があるけれど、やはり夏の果物は瑞々しくてよい。果物の女王と呼ばれるマンゴスチン、ジャックフルーツ、ランプータン、ライチ、龍眼、パパイア、マンゴー等々…。僕にとって嬉しいのが、スイカがいつ訪れてもあることだ。スイカのジュースも嬉しいし、朝食のブッフェを楽しんだ後、十種を超える果物を皿に盛り少しずつ味わうのだが、残念なことに生のドリアンだけはホテルでは食べられない。とは申せ、色とりどりの果物だけ食べても、素晴らしい朝食となる。



Copyright (C) 2002-2007 idea.co. All rights reserved.