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ゴールデンウイークを過ぎると、庭の片隅に植えてあるミョウガが一斉に芽を吹く。一般的には、ミョウガ筍と呼んでこれを食するのだが、僕は何だか勿体ないような気がして食べずにいた。しかし、植物の生命力というかミョウガの我の強さというか、次第に根を伸ばしてついには狭い菜園の中に進出し始めた。ま、これは当然のことであると思う。何故なら、菜園の方は年に二回ほど丁寧に土を掘り起こし、腐葉土やら鶏糞といった有機肥料をほどこしている。その効果が上がっているのかどうかは定かではないが、細々とではあるがルッコラとかイタリアンパセリ、二十日大根などが、朝食のサラダを彩れる位には育ってくれている。

ところが、つい先日畑を掘り起こそうとしていたら、筆ペンくらいの大きさの白い物体がぞろぞろと土の中から出て来た。一瞬何物だろうと考えたが、ミョウガの芽であることに気がついた。二メートルくらい離れたところから、一斉に進出して来たのである。ミョウガの畑の方にだって、毎年冬の間には堆肥を蒔き薫炭状になった籾殻を施している。その効果があるのだろうか、梅雨が明ける頃から秋口までの三ヶ月くらいは、毎日三、四個のミョウガが収穫出来る。そのミョウガの大きさは、市販のパックに入ったものより遥かに大きく身も固くしっかりとしている。ミョウガというのは、うっかりすると一晩の間にクリーム色をした美しい花を、あのミョウガの頭の辺りから咲かせる。蘭の花にも似たなかなか綺麗な花ではあるが、一旦花を咲かせてしまうと、身の方がスカスカになってしまう。考えてみたら、僕達が通常食べているミョウガ自体が花なのである。僕が花と思っていたのは花芯なのかも知れない。とまれ、ミョウガは、花が開く寸前を見極めて収穫するのがこつ。薮蚊に襲われながら、ミョウガを吟味するなんて、考えようによったら実にありがたい話ではある。

Kubota Tamami


ところで、菜園の方に進出して来たミョウガ筍であるが、そのまま放置しておけば畑がミョウガに占領されてしまう。そこで意を決して駆逐することにしたが、ホワイトアスパラとまではいかぬが、白くてシャープなものである。地上に頭を出した尖った部分だけは、濃い緑色に変化している。さっと水で洗ってかじってみたら、仄かにミョウガの香りがする。考えていたほどには癖はない。シャキシャキとした感触も、中々いけるではないか。

そこで、三十本ほどあったミョウガ筍を水洗いして、さっと湯に潜らせて梅酢に漬け込んだ。一時間ほど漬け置くと、淡い赤紫色に染まり美しい。谷中(新ショウガ)ほど精は強くはないが、爽やかな感じがして好感が持てる食材だ。薄く衣を付けて、精進揚げにしてもおいしいかも知れない。とにかく夫婦二人の食材としては量が多いから、色々と試さねばならない。どちらかというと、繊維が多い質だから、斜にスライスして新キャベツの湯通ししたものと合わせて、やはり梅酢と合わせてみたら、これがけっこうおいしい。

梅酢の作り方を記しておこう。そろそろ梅の時季、熟れた梅を五キロばかり買い、一キロくらいの塩と合わせ漬け込み重石をする。このまま冷暗所へそっと寝かして約一ヶ月、そのころになると赤紫蘇が出回る。これを一束買い、茎から葉だけを取りよく洗い水切りをして塩揉みして、先に漬け込んでおいた梅と合わせる。この頃になると、梅の実を上回るほどの水分が出て来る。これに、紫蘇の色と風味を付けるのだ。さらに重石をして寝かせ、土用の頃ザルに乗せ梅と紫蘇を天日に三日ほど晒し梅干しの完成。残った汁が、梅酢。紫蘇はカラカラに干した後、刻んで炒るとゆかりとなる。



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