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今の世にも、冒険家とか探検家という肩書きを持たれている方は多々居られる。例えば、植村直己さんは日本を代表する冒険家であり、五大陸の最高峰を次々に登頂したり、アマゾン河を筏で下ったりと、我々常人には想像もつかぬ事を命を懸けて成し遂げておられる。しかし、最後には極寒のマッキンレーに於いて、無念の死を迎えられた。
かく申す僕も、アフリカのキリマンジャロや南米のアコンカグアに挑んだことがあるが、いずれも大名が駕籠に乗って参勤交代をするようなもので、必要以上のサポーターに支えられてのことである。キリマンジャロは何とか自力で登れたが、アコンカグアに至っては酸素吸入をしながら担ぎ上げられた、と言う方が正しい。六千メートルをちょっと過ぎた辺りで完全に高山病になり、喜んでリタイアー。それでも、カメラマンを始め五人の猛者は難無く登り切ったから素晴らしい。

ま、キリマンジャロとかアコンカグアという山は、現在は高級な観光地になっており、高い登山料とポーターの料金を支払えば、誰でも挑戦は可能である。が、昔の登山家や冒険家は、まさに命を代償にしての挑戦であっただろう。地図もなければ情報もない、あったのは精神力と体力と、名を残すという名誉欲が冒険家を動かしたのかも知れない。

Kubota Tamami
とは申せ、一四〇〇年代の後半は、ポルトガルやスペイン、イタリアの冒険家が国王の命を受け、世界中を探索して廻った。コロンブス、ヴァスコダ・ガマ、カブラル等々という面々が、アメリカ大陸に辿り着いたり、インドに行ったり、はたまたブラジルを見つけたりしている。が、この行動というか冒険は、裏には一獲千金という山師的モチベーションがあるのだ。ともあれ、コロンブスのアメリカ大陸発見(コロンブスを遡ること千年前にヴァイキングのレイフ・エリクソンに既に発見されていたという説もあるが)により、様々なものがヨーロッパに持ち込まれ、その恩恵を我々現代人が受けていることは事実。

僕の大好きな唐辛子も、コロンブスにより種がヨーロッパに運び込まれ、その末裔が世界中に伝播している。トマトや茄子も同じように、ヨーロッパへ渡り品種改良をされ、我々の食卓を賑わして呉れている。と、良いことばかりを考えてしまいがちだが、百人とも百二十人とも言われている当時の近代兵器を携えた軍団が、未開の地に上陸した訳だから、地元の人々との接触はかなり悲惨な物語もあったに違いない。この辺りを映画にしたら、かなり興味深いのでは…。山師の軍団が各地に上陸し、略奪に次ぐ略奪を重ね母国の国王への貢ぎ物を調達したのではなかろうか。

金銀財宝はもとより、バニラスティックやコショウ等ありとあらゆる品々を満載しての栄光の帰国。彼等のもたらした情報により、以後続々と軍隊や船団が訪れ、豊かな植民地政策を行なったのであろう。悲惨な話はともかくとして、中南米は茄子科の植物の宝庫であったらしい。

という次第で、五百年後の我々は大いにその恩恵を受けている。最近、庭の菜園が余りにも陽当たりが悪く作物の出来が悪いので、体験農園の土地を借りた。ここでは、懇切丁寧に作り方のノウハウを教えて下さり、未だ三ヶ月というのに十指に余る野菜の収穫を得た。南米原産のジャガ芋も、驚くべき出来栄えで食べながら唸っている。これからは、トマトが最盛期を迎えるし、原種の茄子に継ぎ木した茄子のおいしいこと。味噌汁の具材や焼き茄子。いずれも、涙が出るほどに旨い。これまた南米が原産地であるズッキーニも、厚切りにしてステーキにすると、果汁が滲み出て来る。コロンブス様、本当にありがとう。


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