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先日、大きな段ボールに満杯のキャベツが送られて来た。少なくとも、二十個くらいは入っていたのではあるまいか。早速、旭川からキャベツを送りつけてきた友人に、
「おーい、キャベツで俺を殺す気か。宅急便の配達係から受け取って、ギックリ腰になりかかったよ。漬けものにでもすればいいのかなー。それにしても、食べ切れないよ」
「あれっ、ダンさん、和寒(わっさむ)の越冬キャベツ知らないの、おいしいんだわさー。今、中々手に入らないんだよー」
それにしても、異常なまでの量のキャベツ、どうして食べればよいのだろうか。悩み抜いた末にロールキャベツにしてみた。それでも、半個くらいしか消費出来ない。が、食べてみて驚いた。砂糖など全く用いていないのに、甘味がたっぷりと入っているではないか。ロールキャベツは勿論旨かったが、それにも増してスープのおいしさが際立っている。天の恵みと言ったらよいのだろうか、自然が生み出したピュアーな調味料が加わっていることは歴然としている。

それもその筈、数年前、和寒のキャベツ農家の方が、降雪の前にキャベツを収穫し損なってしまい、気が付いた時にはキャベツは雪に埋もれてしまったそうである。北海道の冬は長い。そのキャベツは、約半年近く雪の下で冬眠にしていたことになる。四月の終わりになり雪が溶け始めた頃、農家の方が畑からキャベツを掘り出したところ、真っ白にはなっているものの、凍ってはいなかったそうである。よく雪山で遭難した時、雪に穴を掘ってビバークする話を聞く。上手に雪穴の中に身を置けば、外気は氷点下になったとしても、穴の中は零度より下がらぬとか。

Kubota Tamami

つまり、偶然にも氷点貯蔵がなされた訳である。キャベツが何も変化していなかったことを見極め、自宅にもって帰って食べたところ、意外や意外びっくりするほど甘くて旨かったそうである。里芋やジャガ芋は収穫した後に土の中に埋め、春に掘り起こし種薯にするという話はよく聞く。しかもその種薯は眠らせた為に糖度を増し、収穫時よりもおいしいことは、この僕でも知っていた。やはり北海道の友人が、男爵の種薯を送って下さり、「これは種薯だから、かなりおいしいですよ、そのまま蒸かしてバターを乗せて食べて下さい。ホクホクして、一度食べたら病み付きになるけど、これだけしかないからね」
成るほど、水っぽさが消え甘味が何とも表現出来ぬほどにおいしかった。翌年、今度はキタアカリという品種の種薯を食べたが、これまた新ジャガとは明らかに異なる味わい。ただ、さつま芋だけは十五度以下にしてしまうと、腐りはしないけれども水分が悪い方に変化して、口には出来ぬほどにまずくなるから御用心。

という顛末で、越冬キャベツとキタアカリの種薯を用いてポトフを作ってみたのだが、自然の力が作り出したおいしさが凝縮して、レストランでは絶対に味わえぬ素朴な味となった。作り方は何の工夫もない。少量の水を鍋に入れ、四つ切りにしたキャベツと皮を剥いた種薯を丸のまま加え、弱火で優しく煮込むだけ。キャベツからおいしいジュースのような旨味が出て、特上の芋にじわじわと染み込んでいく。味付けは、わずかに塩を加える程度。が、双方に天然のミネラルが含まれているようだから、塩を入れなくても十分においしい。芋が煮崩れる寸前が、最高の食べ時ではなかろうか。神に、感謝したくなるような嬉しい味であった。



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