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四月の半ば、青梅を買いに中国の福建省の田舎に旅をした。日本では、梅の花が散ったばかりなのに、中国の広東省に近い南には立派な梅の実が育っているのである。だが、今回は梅の話ではない。梅干しと天敵のうなぎについてである。

昨今、報道で台湾産のうなぎを国産に偽装したことが、話題となっていた。日本より気温の暖かい台湾だと、養殖うなぎの成長がかなり早いのと、人件費や餌代が安いのだろうか、台湾のうなぎは日本のものより四割近く安いのだそうである。それに目を付けた業者が、台湾のうなぎを輸入して国産と偽り販売したとか。しかし、台湾産のうなぎは日本のうなぎと同じジャポニカ種であるから、日本のうなぎと余ほどの達人でないと見分けがつかないのだそうである。ということは、今まで我々も土用の丑の日に台湾産を食べていた可能性がある。こんなことを申したらお叱りを受けるだろうが、同じ味ならば台湾産でいいではないかと…。だが、台湾産を国産として売っていたことに問題が生じたのだ。何も産地の偽装をしなくても、台湾産と明記すれば問題なかったのだろうが、そうすると売れ行きが悪くなるし、おまけに安くしなければならない。その辺りが問題のようである。

うなぎの生態というのはミステリアスで、未だにどこで産卵するのかははっきりしていないようである。と同時に、完全養殖の技術が確立されていないから、今でも春先に日本の各地の川でうなぎの稚魚掬いに懸命になっている。僕も一度伊勢の川でうなぎの稚魚を目の細かい網で掬ったことがあるが、うなぎの習性を熟知していないと中々簡単には事が運ばない。夜中に頭にランプを灯して稚魚が川を溯上するのを待ち受けるのだが、十センチ足らずの透き通ったうなぎの姿を見つけるのは至難の技。一晩頑張って二十尾に満たない数であったが、それでも一尾が百円ちかくするから二千円の配当。名人クラスになると、一晩に二百尾近く掴まえるのだとか。

Kubota Tamami

その稚魚を養鰻業者が買い受けて養殖するのだが、地球温暖化が原因なのか河川の改修が災いしているのか判らぬが、稚魚の数が世界的に激減しているそうである。今後、うなぎの価格は増々高騰するだろうし、ひょっとしたらうなぎの稚魚の捕獲も禁止されるやも知れない。

面白いことに、中国でもうなぎの養殖が盛んで、その大半は日本に輸入されている。しかし、そのうなぎのほとんどがヨーロッパうなぎでジャポニカ種とは異なるそうである。このヨーロッパ種のうなぎは、見た目がかなり異なるから、例え蒲焼きになっていたとしても、簡単に見分けが付くそうだから偽装は出来ないのだとか。

中国の福建省には、かなりの数のうなぎの養殖場があったが、これはすべてヨーロッパ種のうなぎ。だが、梅を買い付けていた村の川にはうなぎがいて、これはジャポニカ種のうなぎ。それを市場で売っていたが、一尾が三十円足らず。しかも、天然うなぎなのである。これを日本に持ち込んだら、一尾千円近くはするだろう。だが、大量に捕れる訳ではないのだろうから、商売にはならないのである。
そこで、梅農家の方におねだりして料理をしてもらったのだが、当然のことながら彼等の概念の中に蒲焼きはない。で、どんな料理方法かというと、うなぎをぶつ切りにして鍋に入れことこと煮る。というか、出汁を取る要領で静かに煮る。うなぎと共に加えていたのは、かなりの量のショウガの薄切りとニンニクの塊と大根の漬けもの。これに米で作った酒と塩を加えスープとして味わう。生臭さはなく旨かったが、やはり蒲焼きのイメージが抜け切れず少々の物足りなさを感じた。



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