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贅沢の極みとしか表現のしようがないが、ここのところ立続けに、福井産の桜鱒、根室沖の紅鮭とおおすけ(キングサーモン)、白糠沖の時鮭を頂いて嬉しい悲鳴を上げている。これ等の海の幸が、連休明けに続々とクール便にて届いたのである。が、我が家は二人の息子達がそれぞれ独立してしまい、夫婦二人の生活。この為に、食べ切れないものはなるべく早く近所の友人にお裾分けするか、生のものは塩をして保存し、息子達の到来を待つ。

最初に送って頂いた桜鱒はしっかりと塩が施されていたので、これは適宜の大きさに切り分け冷凍庫に保存。一部をそのまま焼いて味わうのと同時に、マリネに仕立てて堪能。桜鱒とは、川鱒が海に下って生育し丁度桜が咲く頃に、産卵の為に子を宿して再び川を遡上する。ということで、体全体にしっかりと脂が乗り、鱒とは思えぬおいしさ。例えてみると、幻の鮭と言われている鮭児に近い素晴らしい味わい。脂が乗っていると申しても、優しい穏やかな味で、一度食べると大ファンになるだろう。

キングサーモンは鮭とはいうものの、鱒の仲間だが、体長は優に一メートルを超える。鮭の王様と言われる所以はそこにある。アラスカ近辺で捕獲されるそれは、ややもすると大味なものが多いが、日本近海で漁れるものの中には、驚く程旨いものがある。残念ながら鮭の仲間には、アニサキスという寄生虫が宿っている場合があるから、生身を即刺身で味わう訳にはいかぬ。

一旦冷凍し、虫を凍死させてから刺身で食べる。この料理方が、アイヌ時代から北海道で食べられていた、ルイベである。キングサーモンのおいしい食べ方は、ルイベにするかカルパッチョが最高ではないかと、僕は考え実行している。

Kubota Tamami

時鮭は時不知とも呼び、昨今はその量も限られている為にかなり高価な魚である。種類は銀鮭と言われているが、秋に遡上する鮭とは異なり、若い鮭達が群れをなして餌を求めて回遊している。この鮭が、主に北海道の太平洋側を回遊した際、定置網に入るそうである。若くして豊富な餌を食べている為に、魚体も大きく脂がしっかりと乗っていて旨い。北海道に回遊して来るのが、五月から六月にかけての一か月くらいだそうで、一般的に秋に漁れる鮭とは季が異なるので、時さけとか時不知と呼ばれるそうである。脂が乗っているから、焼いても旨いし蒸してもグリルにしても絶品。問題は、価格であろう。一般的な秋に漁れる鮭(北海道では秋アジとも呼ぶ)は、一尾が高くても四、五千円だろう。ところが、時不知に至っては一尾が三万円近くはするようだ。実に、六、七倍の値段である。普通の感覚では、切り身を三、四枚買うのが精一杯ではなかろうか。

という次第で、我が家の冷凍庫は鮭と鱒で満杯状態。少しづつ解凍して食べたとしても、かなりの日数がかかるというもの。そんな贅沢な悩みを抱えている折に、長男の家庭に初孫が誕生した。そこで、爺として初孫に会いに行く手土産として、柿の葉寿司をこしらえて行こうと女房殿と相談。土砂降りの雨の中を、形振り構わず柿の葉を二、三百枚採集。米を一升ほど炊き、寿司桶に入れて日本酒を振りかけ混ぜる。普通は酢なのだろうが、我が家では酒を用いる。この方法は、父からの継承である。手に、塩と酒をまぶし、握り寿司を作る要領で、薄切りにした鮭を握りに乗せ柿の葉で包む。別の寿司桶に柿の葉を敷き、そこに握った寿司を規則正しく並べ、その上に柿の葉を再び敷く。都合二段重ねにして、寿司桶に合わせた蓋をして重石をして一晩寝かせる。桜鱒、紅鮭、時不知の三種の柿の葉寿司の出来映えは、自分で作っても唸るほどに旨い。地球温暖化の影響だろうか、鮭の漁獲高も年々激減だそうである。
こんな贅沢、いつまで出来るのであろうか。



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