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そろそろ竹の子が顔を見せ始めた。といったって、未だ未だ普通の八百屋さんには置いてある訳ではない。日本料理の店で季節の先取りで出されるか、高級食材を扱う店に並んでいる程度である。今の時期の竹の子は、探り掘りと言えばよいのだろうか、僕の目にはただの竹林にしか見えぬところに鍬を打ち、金を掘り当てるように竹の子を見つけていた。

早掘りの竹の子は、やや小さ目で黄金色をしている。そんな竹の子を掘らぬまま放っておくと、約一か月の後にかなり成長をして地表に顔をだすのだとか。その竹の子が、我々が普段見ているものである。竹の子掘りの名人の所作を見ていると、ただ何となく当りをつけて掘っているだけのように思える。が、実際はそうではないそうだ、地面の微妙な変化を読み取り、確信を得てから掘っているのだとか。僕がいたずらに掘っても、竹の根にすらぶつからないのは当然だろう。

この早掘りの竹の子、思ったよりおいしい。未だ成長し切っていない所為か、香りがすこぶるよろしい。味もえぐみがなく柔らかなので、刺身のように生で味わえる。さっと茹でて薄切りにして、マヨネーズ(出来れば、自家製がよい)や酢味噌で味わうと最高。サラダに加えても、本当においしい。しかし、貴重品であるから、四月から五月にかけて味わう旬の竹の子と比べると、相当に値が張るのが難点。蛇足ではあるが、旬という字の上に竹冠を乗せると筍になるのだが、僕は、皆さんが心置きなく味わえる旬のものを筍と記し、早掘りのものを竹の子と書き使い分けている。

Kubota Tamami
ところで、昨年はずいぶんと筍を味わった。というのは、福岡県の直方市と飯塚市の境辺りに住んでいる友人が、二回に分けて大量の筍を送って下さった。おまけに、北九州市に居を構える友人からも合馬の筍が送られて来た。この合馬の筍、最近はかなりの量を京都に売っているらしい。それほどにおいしい筍であることは間違いないが、京都で合馬産として売る訳ないから、ひょっとすると産地偽装なんてことになってなければよいのだが…。と、そのくらい、合馬から飯塚にかけての筍はおいしい。恐らく、土が筍に適しているものと予想する。

で、送って頂いた大量の筍を、昨年は一本たりとも無駄にはしなかった。女房殿が農文協から出ている図解『漬け物お国めぐり』という本の中の、京都「たけのこのおから漬け」の件から、おからで筍を保存する方法の記述を見つけ出し、その通りにやったら大成功。お陰様で、昨年の五月から今日迄おいしい筍を味わっているのである。折角だから、簡単にそのレシピを転用させて頂こう。

先ず筍は水だけでゆがく。普通は糠を加えてえぐみをとるが、腐りやすくなるそうだ。次に、五キロの筍に対して二キロのおからと塩をよく混ぜておき、漬け物樽などに均等に漬け込んで、筍の倍の重さ、つまり十キロの重石をして寝かせる。筍が必要になったら、容器から取り出して適宜の大きさに刻む。これを一日水に浸して塩抜きをして、再び茹でる。

と、驚くほど白くておいしい筍が蘇る。煮物にしてもよし、さらに刻んで寿司など具にしても相当に旨い。ま、多少香りは失うものの、先達の知恵として大いに役立っている。

という次第で、早掘りの竹の子が好みなのか、旬の筍を旨いと思うかは人それぞれ。但し、竹の子を食べる際には山椒の葉は無いものと思っていたら、デパート等には小さな箱に入った山椒の葉が売られている。今の日本、金さえ払えば何でも手に入る時代になり、その不自然さが当たり前になってしまっている。最近、家庭菜園にのめり込んでいるが、家庭菜園に手を染めて初めて旬の有り難さを知ったのだが、果してどちらが正しいのであろう。


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