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日本人の好物の中でも、かなりランクが高い食べものにとうもろこしがある。昔唐の国から渡って来たから、唐もろこしなのだろうが、漢字にすると玉蜀黍とか唐黍になる。が、後者はトウキビと読んだ方が正しいかも知れない。北海道に行くと、トウキビと言っているから、少し前までは唐黍と認めていたのだろう。ともあれ、日本列島北海道から沖縄の島々まで、観光地を訪れると間違いなくとうもろこしが売られている。

このとうもろこし、僕が子供の頃は黄色い品種のものが一つだけであった。とうもろこしを近所の農家の親父さんに頂いて、家に持ち帰って茹でる。鍋の中からは、とうもろこしの青甘い独特の香りが漂って来る。十分ばかり火を通したところで、取り出して頬ばるのだが昔の品種は固かった。そりゃあそうだろう、昔のものは鶏等の家畜の餌としてアメリカから輸入されている奴に近い。乾燥させ、粉として用いれば旨いと思う。メキシコ料理の代表、トルティーヤなんかを作るのには最高のとうもろこしではなかろうか。

黄色のとうもろこしが、そのうちに白い品種のものになり、モチとうもろこしとして売られるようになり、こちらの味はちょっとモッチリとして幾分甘かった。それからは、毎年のように改良された新しい品種が出るようになり、甘さを増すと同時においしさもかなり向上して行ったと思う。先ず出て来たのが、ハニーバンタムという黄色い品種で、一時期は北海道を旅しても信州を旅しても、行く先々で茹でとうもろこしや焼きとうもろこしの屋台に遭遇したものだ。

Kubota Tamami

勿論、今でも屋台のような店でとうもろこしは売られているが、最近はちょっと様子が変わって来た。観光道路に面した農家の方が、畑の横の道路際に仮小屋を建て、もぎたてのとうもろこしや野菜を売っている。とうもろこしの品種も、スィートコーンと総称されている甘い品種がめじろ押し。

思いつくままに少し列記してみよう、ピーターコーン、バイカラーコーン、ピクニック、味来、歩味、恵味、あまいろ、と、少し日本調の名前になり、最近ではピュアーホワイト、ホワイトコーン、サラダコーンという新鮮であれば生で食べてもおいしいものが現れた。品種の数だけは、やはり日本がダントツなのではあるまいか。因みに、お隣の韓国や中国に行っても、ほんの二、三種がいいところ、日本のように極端に甘い品種は好まれないようである。

最近感心したのだが、サラダコーンとかフルーツコーンという品種は、とうもろこしの薄皮一枚だけにしてラップに包み、これを一分ぐらいチンする。好みで、最初に塩を施しておけば、とうもろこしの水分が熱と蒸気で塩味をものの見事に配分してくれる。実は、電子レンジを利用する料理、ガチガチの偏見から嫌っていた。が、女房殿の留守の際大量のとうもろこしが到来、その箱の中に簡単でおいしいとうもろこしの食べ方、というのがあり実践してみたら大成功。確かフルーツコーンという品種だったが、ほどほどの甘さと香りが素晴らしかった。しかも、フルーツのような優しい水分に溢れていて、齧り付いた時の食感はまさにフルーツであった。

昨今は家庭用の冷蔵庫が進化し、かなりの早さで冷凍をしてくれる。そこで、旨いとうもろこしに出会ったら、素早く茹でるかチンをして冷凍庫に保存しておこう。しっかりラッピングを施しておけば三か月は充分に持つだろう。食べる際には鍋に水を張り、とうもろこしを入れて人肌に温まったところで食べる。もしくは、解凍したとうもろこしを包丁でこそぎ、ポタージュスープに加えて味わう。同じようにばらしたものを野菜炒めに加えても、自然の甘さが加わり旨さを増すだろう。



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