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博多湾に浮ぶ小島、能古の島に居を移して早一か月が過ぎた。博多の街は目の前にあるのだが、離島ということで福岡市が運行している定期フェリーに頼るしか術はない。当初はさぞかし不便であろうと、かなりの覚悟はしていた。が、有り難いことに、フェリーは平日は二十三便もある。日曜祭日だとしても、二便少ないだけ。家から渡船場までは、五分弱。乗船時間は、十分足らず。対岸の姪の浜の船を降りると、すぐ横が市営の駐車場。こちらでは妥当な価格かも知れないが、何と月五千円という安さ。半端に船に車を乗せると、普通乗用車が往復で五千円弱。一回の往復で、月の駐車料金が出てしまう。

という次第で、毎日の生活の為のアイテムは三日に一度ほど買い出しにかける。人口が八百人足らずの島だから、土産物屋さんはあってもコンビニは一軒もない。あるのは、簡単な日用品と酒屋さんくらいだろうか。しかし、一旦フェリーに乗って博多側に渡るとそこは埋め立て地を利したニュータウン。したがって、東京の自宅の近くのスーパーとは比べ物にならぬ巨大な店がいくつもある。もう一つ驚いたのは、ホームセンターだろう。これも、二キロくらいの円の中にどでかいものが三店鋪もある。東京ほど人が居ないのにやって行けるものなのだろうか。

Kubota Tamami


しばらくの間は、面白がって色々な店を訪ねていたが、必然的にスーパーは程よい広さのやや高級店に的を絞った。というより、品物のすべてにこだわりを持っていると感じたからだ。このお気に入りの店だと、東京で買いものをしていたスーパーとほとんど変わらないと思う。但し、牛乳コーナーに置いてある商品はことごとく異なるようだ。産地が、阿蘇だったり糸島だったり霧島だったりと、東京の牛乳であれば北海道か東北地方、他には那須辺りのものが目に入る。しかし、牛乳は遠くから輸送すると、経費もかかるし味も損なわれるだろうし、衛生面に於いてもリスクが多くなる。僕は牛乳を輸送するのは、牛乳瓶やパックに詰めてから運ぶものと思っていた。だが、生産地から工場に運ぶ方法は、大規模の会社になるとタンクローリーを用いるそうである。製品になって初めて、瓶や紙パックに詰められ店頭に出るそうだ。

ともあれ、消費者にとっては常に新鮮でおいしい牛乳が欲しい。東京で暮らしていた時は、パスチャライズ製法とかいう牛乳の七百ミリリットル入りの瓶を、当初は週に五本配達して頂いていた。ところが、息子達が巣立ち夫婦二人きりになると、当然のことながらこの量は飲み切れない。必然的に週に二本の配達に変更する。だが、それでも飲み切れず、無駄にすることが多々あった。最近食品に関する法が変わり、牛乳は生乳でないと牛乳とは呼べなくなったそうである。だったら、今まで飲んでいた牛乳は一体なんだったのだろうか。

パスチャライズとかノンホモと呼ばれているものは低温殺菌を施され、乳成分が変化しないように作られているらしい。だから、飲む前に容器をよく振るか撹拌してからでないと、脂肪分(生クリーム?)がドボドボとコップに入って来る。息子達は、わざと撹拌せずに濃厚な部分を競うようして飲んでいた。昔、岩手県の牧場を訪れた折に、乳搾りを体験し搾りたてのミルク飲んだのだが、格別に旨かった記憶がある。その後、ホモジナイズと壜に表記されるものが出て来て、有り難がって飲んだのだが、到底岩手の味にはかなうものではない。

このところ気に入っているのは、ジャージー種という小振りの牛のミルク。が、これは乳の出が少ないらしく、価格もかなり高い。それでもがぶ飲みする訳ではないので、ちょっと贅沢な気分を味わっているのだが、博多のスーパーで見つけたジャージー牛乳は、岩手のものに勝るとも劣らないので心から喜んでいる今日この頃である。



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