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昨今のニュースによると、日本の各地に熊が出没し、人々を襲い多くの被害が出ているそうだ。うまく難を逃れた方はともかく、瀕死の重傷を負わされた方もすくなくないようである。熊ばかりではない、噛み付き猿が住宅地に侵入して相当数の方々が被害に遭われた様子。この件は、猿が捕獲され落着したようだが、全国で鹿やイノシシの被害も多々でている。丹誠込めて育てた農作物が、一夜にして荒らされてしまうから堪らない。

こうした出来事を冷静に考えると、確かにけもの達による被害ではあるけれど、けもの達も人間によって大きな被害を受けているということなのだろう。かつては、彼等は地球上を自由に闊歩し生き延びて来た。が、人間という動物が次第に頭角を現し、次第に大地を我がもののように支配し始めたのである。特にここ一世紀の間は、世界各国が競って人間の暮しを更に豊かにする為に、地球を乱開発している。自然の摂理をわきまえず、豊かさだけを求めて環境破壊を行なっているのではなかろうか。その為、地球温暖化という忌わしい現象が、目に見えるスピードで地球上の生物に天罰を与えているような気がする。

人間は言語という伝達の手段があるからよいが、動物は我々人間に意志を伝える方法を持たない。腹が空いてもコンビニがあるわけではなし、致し方なしにかつては彼等の領域であった人間社会に下り、食物を漁るわけである。腹が空いて気が立ったけもの達は、空腹と恐怖心と闘いながら必死の思いでやって来るのだろう。そんな時、人間と出くわしてしまう。そうなれば、生き延びる為に人間に立ち向かう他彼等に術はないのである。確かに、人間だけから考えれば大変な被害ではある。だが、それだけで済ませてよいものだろうかという、複雑な思いが脳裏をかすめる。

Kubota Tamami


実はこの僕も、イノシシによる被害の当事者である。昨年福岡の能古島に居を移してから、自分の手で出来る範囲の野菜だけは作ろうと、かなり頑張っている。今年の春先から必死の思いでカチカチに固まった粘土質の畑を耕し、堆肥やわら屑などの有機物を加え季節に見合った種や苗を育てている。種類は、三、四十はあるだろう。その中に、サツマ芋と落花生があり、梅雨を迎えた頃にはようやくそれらしき形に整って来た。

が、雨上がりの朝、畑に出てみると明らかに偶蹄目の動物の足跡があり、そこかしこをかなり掘り返した形跡がある。どうやら、イノシシがミミズを掘ったようだ。それだけだったら何も問題はないけれど、サツマ芋の畝と落花生の畑がぐしゃぐしゃになっている。後で聞いたら、この二つは彼等の大好物だそうで、皆さん方も毎年被害を受けているのだとか…。それから数日後、梅雨が明けたら食べようと思っていたスイカが全滅。こうなると、畑の周り全域に金網を張るしか手立てはないようである。

被害に遭ったのは僕だけではない、ご近所一帯かなりやられている。そこで、近くのイノシシ通り道に罠を仕掛けると、短期間に五、六頭のイノシシが捕獲されたようで、数日後に肉が配給になった。ちょっぴり複雑な思いが過ったが、もとよりイノシシの肉は大好物。僕は、豚よりもはるかに旨いと思っている。

で、早速、塩コショウを施し、炭火で焼いて味わう。旨いのなんの、特に脂身が素晴らしい。ギトギトしているようだが、意外にさっぱり。余った屑肉は、カレー。東北地方では、カレーというとイノシシだそうだが、よく判る。畑の被害を、身を持って償って貰った訳だが、心境は微妙。出来れば、永久に共存共栄したい思いで一杯だ。



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