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昨年の十月の半ば、我が菜園は一周年を無事迎えた。ラニーニャ現象の影響だったのか、それとも地球温暖化が確実に進んでいるものか、日本の各地と同じように初めての夏は猛暑に苦しんだ。四十度は優に超えるだろう炎天下で、野菜を育てることは難しい。おまけに雨が少なかったので、時々ではあるが夕方にホースを増結して散水を試みたのだが、焼け石に水のようなもの。聞くところによると、トマトなどはなまじ水は与えない方がよいらしい。水分が不足すると、植物は本能で細かい髭根を地中に張り巡らせ、わずかな水分を自身で補給するらしい。ただ、ナスのように下へ向かって真っ直ぐに根を下ろすものには、ある程度の水は与えないと枯れてしまうようだ。その見極めは容易に把握出来るものではなく、いたずらに足掻いていたようだ。

が、何とか酷暑を乗り切り、冬野菜のための種蒔きまで漕ぎ着け、プランターにキャベツや白菜を始めとする十種類程度の種を丁寧に蒔いて行った。本葉がしっかりし背丈が十センチ程度に伸びると、いよいよ腐葉土や元肥になる栄養素を事前に施した畑に植え込む。マルチシートや敷き藁の寝床で、期待以上に畑の野菜は育ってくれた。ダイコンやニンジン等の根ものは畑の小石を丁寧に取り除いた。ダイコンが人間のように二本足になったり根分かれをする原因は、小石に当って左右に別れてしまうということだと、実際に畑に取り組んで初めて分かった。晩秋から年末にかけては適度の雨も降り、野菜達はすこぶる順調に伸びてくれ、この調子だと年末から年明けの食べものには困ることはないと夫婦で喜んでいた。

Kubota Tamami

ところがである、おいしくて安全な野菜を望むのは人間ばかりではない。ふと気付いてみると、ダイコンやカブの葉に小さな虫の糞があるではないか。そのうちに、葉っぱにポチポチと穴が開き出す。大変だ、と思った時には、半ばレース状になってしまったものが認められた。目を凝らしてよーくみると、何やら小さい緑色の虫が無心に葉を食べている。青虫だ。そう云えば、一月ばかり前に紋白蝶(もんしろちょう)が数羽乱舞していた。奴等が卵を産み、その子達が畑を荒し回っていたようだ。本当は、幼気(いたいけ)な虫を駆除するのは忍びないのだが、こちらも生きて行かねばならない。さりとて、殺虫剤の散布だけはしたくない。そこで妙薬『テデトール』の施行。つまりは、手で掴まえて足で踏み付けて安楽死。畑全体で、毎日三十匹くらいずつ捉えても一向に改善される気配がない。不思議に思っていたところ、青虫がポトリと地面に落ちたので、野菜を手で除けて探していたら、事もあろうに小指大の夜盗虫(よとうむし)を発見、こ奴が真犯人であった可能性が高い。そこで、日が沈んだ頃を見計らって畑に出てみると、いるわいるわ黒茶色した大小の夜盗が、忽ちにして五十匹を発見処刑。

てなことで、十二月の半ば頃まで夜盗虫とのバトルを繰り返し、何とか正月の野菜は確保出来た。白菜、大根、キャベツ、カブ、人参、里芋の出来が素晴らしく、節料理の殆どは自家野菜で賄うことが出来、人生最良の正月が迎えることが出来た。

ところが、松が明け一段落した頃から、俄に外が賑やかになってきた。庭に出てみると、ヒヨドリ、ムクドリ、ツグミの大軍が交互にやって来て騒いでいる。ヒヨドリが畑を荒らしている時は、ムクドリは柿の木の辺りで待機。ツグミは百を超えるだろう大軍で到来、畑を絨毯爆撃だ。という次第で、折角の白菜もレタスも殆ど根の部分しか残っていない。楽しみにしていたキムチも白菜の漬けものも、来シーズン迄お預け。虫の被害は最小限に押さえられたが、想定外の天敵には根こそぎやられた。これを機に、次回は防鳥ネットで完全武装をしよう。



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