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昨シーズンの我が菜園は、根もの野菜が殊の外よく出来たことは、前回に報告したと思う。とは言うものの、家庭菜園に首を突っ込んでから丸五年。しかも、最初の三年間は体験農園にて先生の言うがまま為すがままの畑作りであった。

が、新天地能古の島に移住してからは、もう指導者はいない。夫婦二人切りで、試行錯誤の毎日。一番困ったのは、練馬の体験農園と新しい畑の土が全く違うこと。練馬の土は真っ黒でサラサラとしていたが、こちらの土は赤っぽいネズミ色で粘土質。鍬やスコップを土に入れた途端、その感触の違いに驚いてしまった。おまけに、土のpH値がかなりアルカリに片寄っていた。

それでも、何とかして日常に食べる野菜を育てなければフェリーに乗っての買い出しを余儀無くされる。そこで、せっせと土の天地返しを行い、島に繁茂している真竹をボランティアの方々が伐採しチップにしたものを分けて頂き、これを大量に畑の土に混入。他にも、完熟堆肥だとか稲ワラを発酵させて加えたり、参考書を見ながらかなりの時間を費やして何とか畑らしくなってきた。昔は田んぼだった場所に梅の木を植え、そこを僕達夫婦が開墾し畑にしたけれども、土の中には大量の小石やようやく持ち上げられるくらいの石がゴロゴロ。聞くところによると、田の底の部分に砂利や石を敷き、その上に粘土質の土を乗せ、更に堆肥や普通の土を入れてようやく田が出来上がるそうだ。こうしないと折角水を引いても、直ぐに水は大地に吸い込まれてしまうようである。

畑を作っている最中にこんな話を聞き、ことの重大さにめげかけもしたが、人間が行ったことだから我々にだって時間をかければ後始末は出来る筈。そう気を取り直して、再度畑に挑戦しつつ現在に至っている。

Kubota Tamami
こうした発展途上の畑で困ることは、根もの野菜の生育に支障を来すことだろう。葉ものは三十センチくらいの畝を作っておけば、それほど問題はないけれど、大根や人参という地中に食べる部分を伸ばして行く野菜に影響が出る。例えば大根だが、米粒ほどの小石が根に当っても、大根はそこから二股に分かれてしまうから始末に終えない。

という次第で、昨年の秋はなるべく土を深く掘り、嫌になるほどの石を取り去り六種類の大根にトライをしてみた。先ずはタクアン用の練馬大根と同じく改良されたタクアン用理想大根。大根下しや煮物には三浦大根と青首。キムチ(カクトゥギ)用には聖護院、それに蕎麦や釜揚げうどんに用いる辛味大根。六種類の大根は、成長過程に於いてかなり夜盗虫に葉を食べられたりはしたが、百点満点とは行かぬものの僕等にしてみればかなり嬉しい出来栄えであった。中でも、本当に育ってくれるかと心配した練馬大根。ま、多少の大きい小さいはあるものの、大好物のタクアンには十分と言ってよい。

練馬に暮らしている時には、練馬大根のタクアンは身近なところで手に入れることが可能であった。ところが、福岡ではかなり探したけれど、一般的な黄色いものしか売られていなかった。だったら、自分で漬けようということになり、大根を植えたのである。

収穫した大根は、葉を落としてから丁寧に優しく水洗いをし、すだれ状に細紐で編んで軒下に十日ばかり干す。無理せずUの字に曲げられるようになったところでカメに漬け込むのだが、大根の重さ十に対し米ぬか一割。塩は、約六%。これに、ザラメ半カップ、唐辛子、干した柿の皮やミカンの皮、後は昆布を三十センチばかり細かく切って混ぜる。カメの中で均一になるよう、全てのものを並べて重石をする。今回は干した大根の重さが十二キロであったから、三十キロ強だっただろう。苦労した甲斐があって、今はかなり旨いタクアンを毎日味わっている。


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