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最近、糖尿予備軍になってしまったことは、恥ずかしながら前号でお知らせした。そこで一念発起、医者の言う通り、とにかく痩せよう、と。

「だんさん、僕も糖尿なんだけれど、毎朝にんじんとリンゴのジュースを飲むといいですよ」
「そのジュースを飲めばいいだけですか」
「いやいや、朝はジュースだけで我慢。昼は出来るだけ日本蕎麦が好ましい。そのかわり夜はフリー、何を食べてもいいらしいですよ」

確かにその友人、ここ二年ばかりで随分とスマートになった。かつては大酒飲みで大飯喰らいで、どちらかというとギラギラしていた感があった。ところが、最近はけっこう中年の好い感じのおじさんに変身した。合わせて大会社の役員にも昇進したので、身なりもきっちりとし始めた。周囲の若い女性達の評価も、かなりの高得点である。しかも、年に二回最近話題のダイエットサナトリュームへ通っておられる。最低一週間の入院だから、かなり強固な意志がないと続きはしない。しかし、退院時に必ず次回の予約をしてくるそうだから、頭が下がる。


Kubota Tamami

このニンジンジュースダイエット、聞けば今大ブームであるらしい。ま、そんなことはどうでもよろしいのだが、有り難い女房殿が本を買い込み、早速ジュースを作ってくれた。ニンジン約四百グラムとリンゴ約三百グラムをジューサーにかけ、液体にするだけである。これで、ほぼコップ三杯のジュースが出来上がる。これを、ゆっくりと噛むように味わうのだ。当初は、無知な先入観から何だか忌わしいものを飲むような気分で口に運んでいた。ところが、数日続けてみると、これが至っておいしいのである。

糖尿病、今まではまるで他人事のように考えていた。というのは、我が檀ファミリーには、糖尿になったという人が皆無だったからである。酒の飲み過ぎで肝臓を悪くしたとか、たばこを吸い過ぎて肺ガンになったとか……。僕の父は肺ガンだったし、叔母は確か肝臓ガンであった筈。母の一族のことはあまり分らないが、糖尿病で亡くなったという話は聞いたことがない。だから、糖尿に関してはノーケアであった。

ただし糖尿病の悲惨さは、父の友人の例や僕の周囲にも糖尿で苦しんでいる知人が数人いて理解はしていた。が、まさか自分の身に降りかかってくるとは、夢にも考えなかったのである。とまれ、冷静になって考えると、僕の場合は空腹時の血糖値がボーダーラインを僅かに超えた程度である。頼もしき女房殿は早速書物を買い込んで来て、

「先ずは食生活ですね。それと、運動。毎日の散歩を、もう少ししっかりと歩きましょう。だらだら歩いたって、何にもなりませんからね」

何だかドクターより細かい指示が出てきた。おまけに、

「食事も、これからは一人ずつの小分けにしますからね。一盛りにして大皿にして出すと、あなたがどれだけ食べたのかわからないでしょっ。それと、朝はリンゴと人参のジュースだけです。お昼は、出来るだけお蕎麦を食べるようにして下さいね」

まだ、一週間しか経ってはいないが、制限付きの食事に切り替え、運動もたっぷりと行っている。心なしか、腹部の脂肪がゆるんで来たような気もする。とにかく自分の体のこと、しっかりと現実を見つめ糖尿予備軍で終わりたいと考えている。今、唯一の愉しみは、制限のない夕食をゆっくり味わうことである。


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