43





夏から初秋にかけての食べものに、とうもろこしがある。とうもろこしを漢字で書くと、「玉蜀黍」というかなり難しい字となるが、もともとは唐の国からきたもろこしが、いつの間にか玉蜀黍ということになったようだ。というより、正式に中国語では玉米(イーミィー)というらしい。中国語で玉は翡翠を意味するから、昔の中国ではとうもろこしを玉のような米と表現したに違いない。そのとうもろこしを日本に於いて漢字表記する際、調べてみると唐時代はおろか三国志の時代迄遡り、蜀の国のもろこし(黍)であることが判明し、玉米の玉を頭に被せて玉蜀黍と書き、無理矢理にとうもろこしと読ませたのではないかと推測する。だが、お隣の韓国ではオク・スゥ・スーというから、音から察すると玉蜀黍と書くのかも知れない。

ともあれ、とうもろこしは旨い。もぎたての未だ青臭いようなもろこしを、大鍋に用意した熱湯の中に入れ待つこと十五分から二十分。手に持つのが困難なほど熱いもろこしにかぶりつく、整然と並んだ宝石のような粒から、甘い香りと濃くのある旨味が口一杯に拡がり、季節の有り難さをしみじみと味わえる。とうもろこしをおいしく茹でるこつは、出来るだけ大きな鍋がよい。というのは、とうもろこしを鍋の中に入れると、一気に鍋の温度が下がってしまうからだ。と同時に、塩は天然のなるべくおいしいものを使うに限る。友人の中には、やれフランスの塩がいいとかドイツの岩塩がすこぶる旨い、とか言っているがあながち思い込みだけではなさそうだ。僕も、フィリッピン産の石蔵の塩という塩田で作られた塩を用いてから、確かに茹でものが旨くなったことを確信した。

Kubota Tamami


昔から、タケノコをおいしく食べるのには、湯を沸かしてからタケノコを掘りに行け、なんてことを言っていた。とうもろこしも同じなのである。だから、よくスーパーなどで剥いたとうもろこしをラップに包んで売っているけれど、これだけは旨い訳がない。確かに、とうもろこしは剥いてあるとゴミの始末だけは楽ではあるが、失うものも大きいのである。面倒ではあるが、とうもろこしだけは衣をしっかりと着た皮付きを買った方がよろしいだろう。
しかも、なるべく新鮮なものがいい。これを見分けるのは難しいが、もろこしの付け根の部分の切り口が新しいものを選ぼう。つまり、切り口が茶色くなったものは、古いと考えていいだろう。

しかし、最近のとうもろこしの新種の登場には、驚くばかりだ。昔は、黄色いとうもろこしが主流でかなり固かった。そのうちに、モチとうもろこしという白い品種が出回り、味もかなり向上したようだ。だが、ピーターコーンという、柔らかくて甘いものが出現し一世を風靡した。と思ったら、ハーベストクイーンなる品種が出て更に甘くなり、お陽さまコーンとか未来といった極甘のものが流通し始めた。未来という品種は、もいでから二時間くらいは生でも食べられるというので、群馬の旅館の主人の畑で食べさせて頂いたのだが、何だかサラダを食べているようだった。ただこればかりは、自分で植えないとどうにもならないので、機会があれば是非お試し頂きたい。

今年は、ピュアーホワイトという品種が出て、これも新鮮なうちは生で食べられるとか。いずれにしても、北海道産なので東京に届くのに二日はかかる。
ところが、現地で茹でて頂いて、熱いうちにラップをしてもらいクール便で送ってもらうと、殆ど味が損なわれずに済むことが判明した。しかも、家に着いてからも、数日間は冷蔵庫で保管出来るそうだ。今季は、この方法で玉蜀黍を楽しもうと思う。