システムキッチンのナゾ
インダストリアル・デザイナーの瑠璃さんも、
「このお台所いいわね、よくできてるわ」
と感心の面もち。
「こんなところに暮らしたら、人生楽しいわね」
「もったいないわ、ここをやめちゃうなんて」
「でも、実際に暮らすと、年とったら都会のほうがラクなんじゃない?」
たしかに、海からの西風がまともに当たる山の中腹は、嵐のときはものすごいだろう。
知人の女性が、定年後、江ノ島の見える中古マンションを買って、いまはやりの女友達と共有の暮らしを始めることにした。台所の改造に一千万かけたというので、みなが驚き呆れた。
「なぜそんなにかけたの?」
「ワーキングウーマンだったあなたに、一千万円分のお料理の腕があるの?」
「だってシステムキッチン入れたんですもの」
あわてた彼女は「相棒が、だんぜんそれにしようって言ったのよ」と弁解した。
「日本のシステムキッチンて、名前だけ。システム化されてないの。システムなら、どのメーカーの冷蔵庫でもガスレンジでもぴたり入るべきなのに、日本のはそのメーカーのしか入らないでしょ」
「うーん、そこまで考えなかったわ。戸棚のドアが赤く、つるつるですてきだったんだもの」
瑠璃さんはデザイナーだから、きっぱり、
「キッチンの改造なら、二百万から二百五十万円でりっぱなものになるわ」
葉山で、この小さな出来事を思い出していた。
いったい、何が使い良いキッチンなのか?
「日本のキッチンは、男が概念だけで造るからダメなんだ」
友達のデザイナーは言い、私も大賛成だ。
お料理への関心が二極分化してる時代だ。何ひとつ作らず、作れず、買ったものばかり食べる料理音痴、生活音痴がいるかと思うと、おそばを挽いて蕎麦打ちに凝るひとも増えた。
キッチンはジェンダー、つまり性的な役割が色濃く残る場所でもある。女だけに家事を押しつけ、台所に知らんぷりの夫はまだ多い。最近のミシガン大学の調査でも、世界の先進国で異常に家事時間が短いのは日本の男性だ。
友達の若い夫婦は、ジェンダー・フリーで、キッチンは男二人(夫と息子)と女一人(妻)が使うから、二対一で男性の寸法にあわせて高め。女性は高さを調節するためにキッチンではサボをはく。
どこの家でもキッチンを充分広くとれるわけではないから、道具をどうセレクトするかは思案のしどころ。うちでも冷蔵庫は二つある代わり、電子レンジを追い出し、自動炊飯器も無し。おいしく調理できない上、場所をとりすぎる道具だからだ。
「お台所が空いた!」
とニャジニャジ(うちの猫語)していたら、またモノが増えてしまった。パスタマシーンである。これは、台所のモノはどこまで減らせるか、どれを増やすか、の永遠のテーマの見本だ。料理のために必要だとモノが増える。アイスクリーム・メイカー、ワッフル・マシーン、そしてパスタ・マシーン。
「これ以上、ものいらない」と言ってたのに買ったのは、娘の友達の男が、これに夢中だからだ。彼の話しがいかにもおいしそうで、つい買ってしまい、太るのを承知でパスタを作っている。
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