昔から蕎麦屋は気軽に飲む場所であり、昼間から飲める格好な場所でもあった。一杯やる人のために先ず蕎麦味噌がお通しとして出され、つまみは蕎麦屋の定番といわれる焼き海苔、いたわさ、卵焼き、焼鳥などがあり、天ぷらや、とんかつ、また親子丼の上だけという注文も出来る。
その蕎麦屋で飲むというスタイルが最近また人気がある。何しろ気軽だし、つまみも色々揃っていて、安いというのがいい。

表紙の写真は、「蕎麦寿司」である。この蕎麦寿司は古くからあり、明治の中ごろ蕎麦屋のメニューに加わったと言われる。茹でたそばを海苔で巻いたもので、芯には卵焼き、甘く煮た椎茸、胡瓜が入っている。そばに酢の味を付ける店もあるが、《尾張屋》では、そばの香りを大切にするため酢は使わない。口に頬張ると、そばと海苔の香りが広がり、卵焼きと椎茸の甘さ、胡瓜の歯ざわりがなんともいえないハーモニーをかもし出す、酒のつまみに乙な蕎麦屋の逸品である。(
撮影:古屋 博)

撮影協力:《神田尾張屋》
千代田区神田須田町1-24-7(本店)
TEL.03-3256-2581