甘からず不味からず、佳味幽玄にしてゆかしき---

四国・徳島の老舗菓子舗《冨士屋》の看板商品「小男鹿」である。最上質の山の芋、阿波特産の和三盆糖、粳米、鶏卵、抹茶など、すべてに吟味された国産材料を用い、伝統の手法でつくりあげる棹物の蒸し菓子。創業は明治3年(1870)。11代目は風雅を好む粋人で、茶会を楽しくするような菓子を模索するうち、「小男鹿」の銘と姿に思い当った。試作を重ねること10年余り、切った断面に小豆が点々と浮き出し、丁度鹿の子斑の肌模様に見える現在の姿に完成させた。明治20年前後である。

爾来、山芋の粘り・風味・小豆の香り・和三盆糖の麗しい甘みが見事に調和したこの菓子は名物になった。

「大切な人と人の真心を橋渡しする使命を持つ和菓子は、真心そのものでなければならない」と当主。風雅な味をお楽しみあれ。
■ 冨士屋
徳島市南二軒屋町1-1 TEL.088-623-1118(代)